プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> さやいんげんの煮もの、きんぴら、梅煮
今日はさやいんげんを使った酒肴を3種紹介します。飯のおかずにも、箸休めにもなるおいしくて気の利いた一品です。さやいんげんについては「
さやいんげんと春菜の黒ごま和え、モロッコいんげんのごま酢クリーム和え」でお話ししましたが、さやいんげんを日本に持ち込んだとされる隠元禅師は、日本の精進料理において他と趣を異にする普茶(ふちゃ)料理という流れを作りました。
寛文(かんぶん)元年(1661)、隠元禅師とその一行(弟子、工人たち)により宇治五ケ庄(ごかしょう)に黄檗山萬福寺(おうばくさんまんぷくじ)が創建され、同時に中国風の精進料理である「素菜(スーツァイ)」、別名「素食(スーシー)」が移入されました。
普茶料理、略して普茶(ふちゃ)とも呼ばれ、その語源については、黄檗内では「大衆(僧たち)と普(あまね)く茶を供にする」という説や、「茶礼(されい)」に赴(おもむ)くという「赴茶(ふちゃ)」が「普茶」となったとする説などがあります。
「
蓮餅のうなぎもどき、松前揚げ」でも述べたように、普茶料理にはもどき料理が多く見られます。肉や魚介および五葷(ごくん。にんにく・らっきょう・ねぎ・にら・のびる)を一切用いず、出汁も植物性のものだけで、ゆば、豆腐、こんにゃく、大豆たんぱく、小麦グルテンなどを用いて作られます。
さやいんげんは緑の色が鮮やかで張りがあり、しゃきっとしたものを選びます。鮮度が落ちると黄色みを帯びてきます。太く大きいものは育ち過ぎて堅くなっている場合があるので、若くて細めのものがよいでしょう。
(右)モロッコいんげん、(中央)スナップえんどう、(左)さやいんげん。今回はさやいんげんを使ってもどき料理を作ろうかとも思いましたが、やはり、シンプルな料理が一番おいしいです。さやいんげんの個性を生かし、花の器に盛って個の花を咲かせます。さやいんげんの花言葉は「豊かさ」、「必ず来る幸福」、「喜びの訪れ」だそうです。この料理を食べて皆さまに幸せ、喜びが訪れますように。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「さやいんげんの煮もの」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 香り 刺激
・さっと
下茹でした後に炊くと、ほのかな苦みが消えて味が染みやすい。
・さやいんげん嫌いの理由の一つである
キュッキュッという食感は長めに炊くと消える。
・「
ふきの煮もの」のように
色を気にせず炊くとおいしく仕上がるが、
緑色を残したい場合は、炊いた後、鍋底を氷水につけて急冷するとよい。
・酒肴にする場合は、種を抜いた赤唐辛子を加えて炊いてもよい。
・「揚げさやいんげんのきんぴら」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 香り 刺激
・さやいんげんを
素揚げすることでキュッキュッという食感がなくなり、油分が加わってこくが出る。
・種を抜いた赤唐辛子や生姜のせん切りを一緒に炒めるか、仕上げに一味唐辛子をふって刺激や風味をたしてもよい。
・「さやいんげんの梅煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・
出汁にほぐした梅干しを加えてしばらく炊き、酸味と風味を移した後にさやいんげんを炊く。
・沸かした煮汁にさやいんげんを加えて
さっと炊き、鍋ごと冷やして食感を残す。
・梅煮はその日に食べる分だけを作る。翌日になると梅干しの酸でさやいんげんが褐変する。
「さやいんげんの煮もの」(左)
【材料(2人分)】・さやいんげん 50g
・油揚げ 1/3枚
・出汁 150cc
・みりん 小さじ1
・薄口醤油 小さじ1/2
・濃口醤油 小さじ1/2
【作り方】1.さやいんげんは筋がある場合があるので、念のために1〜2本の両端を折って筋がないか確かめる。筋があれば除く。
2.鍋にたっぷりの湯を沸かし、さやいんげんを入れ1分ほど茹でて水に放す。冷めたらざるに上げて水気をきり、3cm長さに切る。
3.油揚げは5mm幅×3cm長さに切る。
4.鍋にさやいんげんと油揚げ、出汁を注いで火にかける。すべての調味料を加えて沸いたら、弱火にして2〜3分炊いて火からおろす。そのまま15分以上味を含ませて器に盛る。
「揚げさやいんげんと山くらげのきんぴら」(上)
【材料(4人分)】・さやいんげん 50g
・揚げ油 適量
・白こんにゃく(黒いこんにゃくでもよい) 50g
・山くらげ(下煮する) 50g 「
山くらげの辛子酢味噌和え」参照
・サラダ油 小さじ1
・日本酒 大さじ1
・みりん 大さじ1
・きび砂糖 ひとつまみ
・濃口醤油 小さじ1
【作り方】1.さやいんげんは筋があれば除く。175℃の揚げ油で1分ほど揚げ、クッキングペーパーに広げて余分な油を除く。3.5cm長さに切る。
2.白こんにゃくの臭みを抜く。白こんにゃくは5mm角×3cm長さに切る。水に8%の酢を加えた中に白こんにゃくを3分つける。酢水から上げた白こんにゃくを流水でもみ洗いして酢を流す。鍋に湯を沸かし、白こんにゃくを入れて2分茹でて水に放し、もみ洗いして酢を完全に抜き水気をきる。
3.水でもどして下煮した山くらげは、煮汁から上げて汁気を絞る。乾いた布巾で包んでさらに水分を除いて3cm長さに切る。
4.フライパンを火にかけ、サラダ油をひいて白こんにゃくと山くらげを加え、強火で炒める。水分が飛んで油がなじんだらさやいんげんを加えて炒め、すべての調味料を入れてからめる。汁気がなくなったら火からおろし、器に盛る。
「さやいんげんの梅煮」(右)
【材料(2人分)】・さやいんげん 50g
・出汁 150cc
・日本酒 大さじ3/4
・梅干し(中) 1個
・薄口醤油 小さじ2/5
・梅肉 少々
【作り方】1.さやいんげんは筋があれば除く。さやいんげんをまな板の上に横向きにおき、筋の部分に沿って水平に包丁を入れて2等分する。断面に見える種を除く。さらに縦に細長く2〜3等分し、3cm長さに切る。
2.鍋に出汁を入れ、梅干し(指でつまんで少しつぶしておく)と日本酒を入れて火にかける。沸いたらごく弱火にして5分ほど炊き、梅干しの酸味と風味を出汁に溶け出させる。クッキングペーパーでこして鍋に戻し、薄口醤油を加えて沸いたらさやいんげんを入れる。1分ほど炊いて火からおろし、鍋ごと氷水で冷やし20分以上味を含ませる。
3.汁気をきって器に盛り、梅肉を少量添える。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗