アンドレ・ボーシャン《川辺の花瓶の花》1946年 個人蔵(ギャルリーためなが協力)アンドレ・ボーシャンと藤田龍児。ヨーロッパと日本、20世紀前半と後半と、活躍した地域も時代も異なる2人を組み合わせた展覧会が企画されたきっかけは、コロナ禍だったそう。本展を企画した東京ステーションギャラリー館長の冨田 章さんに聞いた。
「予定していた海外作品の展覧会が延期となり、急遽代替の展覧会を企画する必要に迫られるなか、最初は別個のテーマとして名前が上がっていました。2人の作品には、ともにすさんだ心を癒やす力が宿っていると感じ、組み合わせて展覧会を作ろうと思いつきました」
藤田龍児《デッカイ家》1986年 星野画廊詳しく調べていくと、2人の人生に共通点が見つかったという。
「2人とも50歳を目前にして、画家としての新しい人生を歩み始めたことです。ボーシャンは第一次世界大戦従軍中に経営していた農園が破産、妻が精神を病んだことから、妻の故郷の森に家を建て、半ば自給自足の生活をしながら40代後半で絵を描き始めました。一方の藤田は20代の頃から画家として活躍したものの、48歳で脳血栓を発症して利き手の右手が使えなくなり、絵筆を左手に持ち替えて画風もがらりと変えました」
アンドレ・ボーシャン《窓》1944年 個人蔵(ギャルリーためなが協力)「つまり、2人とも大変に苦しい状況のなかで、こうした牧歌的な作品を描いたのです。一見素朴ですが、深い味わいがあります。絵に向き合う姿勢は真剣そのもので、絵を描くことは彼らの人生そのものであったと思います。こうしたアートに触れることで、見る人の気持ちが少しでも穏やかになってほしい。この展覧会には、そんなささやかな願いを込めています」
牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児
表示価格はすべて税込みです。
構成・文/安藤菜穂子
『家庭画報』2022年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。