辻井伸行 森の音楽会(後編) 2021年9月、野外を含む多様な会場を舞台に、新しい音楽祭「富士山河口湖ピアノフェスティバル」が産声をあげました。世界で活躍中の辻井伸行さんをピアニスト・イン・レジデンスに迎え、雄大な自然と多彩な音楽に満ち溢れた4日間。その様子をリポートします。記事の最後で、2022年9月に予定されている
第2回開催情報もお届けします。
前編はこちら>> 【2日目】勝山小学校
世界的ピアニストが小学校にやって来た!
音楽教室のプログラムでは、自分が考えた題名が採用され、嬉しくて照れる子も。目の前で次々と音楽が生み出されていく様子を見て、子どもたちの想像力や創造力も大いに刺激を受けたという。辻井伸行(つじい・のぶゆき)1988年東京生まれ。10歳でオーケストラと共演してデビューを飾る。2009年ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで日本人として初優勝後、国内外のリサイタルやオーケストラ共演で成功を収めている。エイベックス・クラシックスよりCDを継続的に発表し、2度の日本ゴールドディスク大賞受賞。作曲家としても注目され、映画『神様のカルテ』で第21回日本映画批評家大賞映画音楽アーティスト賞を受賞。(※辻井伸行さんの「辻」は、正式には点が一つのしんにょうです。)小学生たちと一緒に創り上げた初めての音楽教室
この日は地元の小学校に舞台を移し、辻井さん初の音楽教室「この音なに色」が行われました。
世界で活躍するピアニストの登場を心待ちにしていた3校280名の児童のために、辻井さんは創造性豊かなプログラムを企画。
まず題名を伏せて自作曲を演奏し、その題名を名づけてもらってから、再度演奏します。
「この『川のささやき』は父と川沿いの道を散歩中に気持ちいい風が吹いてきて、川のせせらぎの音が囁くように聞こえた、その時を思い出しながら創りました。皆さんそれぞれ何を感じながら聴いているのか知りたかったのですが、春の桜や綺麗な湖をイメージしたようです。やはり自然の中で作ったことがわかるんですね」
お題「富士山の綺麗なイメージ」は、音域を幅広く使ったダイナミックな曲に。最後に“富士は日本一の山”をそれとなくアレンジして終えると会場からクスッと笑い声が。「面白いことをするのも好き」とお茶目な一面も。子どもたちからのアイディアで即興の曲が瞬時に生まれる!
次は子どもたちがお題を出し、辻井さんが即興演奏する企画です。「富士山の綺麗なイメージ」「花火」「青空の田園」など、子どもたちから様々なアイディアが飛び出します。
辻井さんはすぐさまピアノに向かうと、躍動感あるリズム、幅広い音域でのグリッサンドやトリルなどを入れながら、煌めくような多彩な情景を紡ぎ出していきました。
なかでも「神様がくれた才能」というお題は意外と大人っぽくて驚いたそうですが、美しく、時に切ないハーモニーが響く曲になりました。
「小さい頃から即興が好きで、家にお客さまがいらしたとき、その方のイメージで即興演奏するととても喜んでくださいました。今回子どもたちと一緒に曲を創る中で、思いがけないお題もありましたが、できる限りイメージして弾きました。皆さんも一緒に参加して、楽しんでくれたと思います」
「子どもたちと一緒に音楽が創れて嬉しかったです。皆さんの歌にも感動しました」── 辻井さん
また幼い頃ピアノに向かうきっかけになったというショパンの「英雄ポロネーズ」も披露。続く質問タイムでは、幼少期のエピソードや国際コンクール優勝体験、日常生活などについて笑顔で答えていきました。
「ピアノは身体の一部で友達みたいなもの。皆さんにも、『音楽はこんなに楽しいんだよ、ピアノはこんなに色々なことができるんだよ』とその可能性を楽しんでもらえていたら嬉しいです」。
最後は子どもたちから「ありがとうの花」の合唱が贈られました。今後も子どもたちのために色々企画できたらと、辻井さんの目標がまた一つ増えたようです。