新生姜と油揚げの煮もの、鼈甲(べっこう)煮
新生姜を使った、日本酒によく合う酒の肴を紹介します。酒で口がベタつくとき、新生姜の爽やかな風味と辛みが口中をリセットしてくれます。旨みの強いあてやしょっぱいつまみではなく、風味と辛みを楽しむ粋な肴です。「
小かぶの浅漬け、水なすの浅漬け・昆布押し」でお話しした、香道で鼻の疲れを取り、リセットするためにぬか漬け大根を使ったのと同じですね。
生姜は熱帯アジア原産で、インドや中国では紀元前から利用されていたようです。日本へは3世紀以前に中国から伝わったと考えられ、『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』や平安時代の『延喜式(えんぎしき)』、『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』にも記載があります。
新生姜。生姜は根の部分と思われがちですが、茎が土の中で肥大化した地下茎です。生姜には芽生姜、葉生姜、新生姜、古根生姜(ひねしょうが)があります。古根生姜は囲い生姜とも呼ばれ、秋に収穫・貯蔵したものが随時出荷され、通年出回っています。繊維質で辛みと香りが強く、薬味や香辛料として利用されます。
種生姜として植え付けた古根生姜の上の部分に新生姜ができ、2~3㎝に育ったら葉付きで出荷されるのが葉生姜で、谷中生姜が有名です。細い根茎は皮が白くて柔らかく、茎の付け根は赤みを帯びています。辛みも穏やかで甘酢漬けや天ぷらにしてもよく、味噌をつけてそのまま生食もできます。
葉生姜よりもさらに若採りしたものが芽生姜です。金時生姜という品種を陽にあてずに軟化させ、出荷直前に日に当てて茎に赤みをつけます。見た目の形が矢に似ているので矢生姜とも呼ばれます。焼き魚に添えられている、茎が紅色をしたはじかみに使われます。
成長した新生姜は5月末〜8月頃が旬で、収穫したら貯蔵せずに出荷されます。繊維が柔らかくてみずみずしく、辛みが穏やかです。薬味や香辛料ではなく野菜として使うことが多く、甘酢漬け(「
新生姜の甘酢漬け3種」)や天ぷら(「
新生姜のかき揚げ、甘酢漬けのフライ」)、生姜飯(「
生姜飯」)にしてもおいしいです。他にも味噌漬けや醤油漬けなどの保存食にもできますが、今日ははしりの今だからおいしい2種の煮ものにします。
生姜の香り成分には食欲増進の働きがあり、疲労回復・夏バテ解消にも有効。辛み成分には強い殺菌作用があって、がん細胞の増殖を抑制するともいわれ、血行促進、体を温め新陳代謝を活発にします。酒がつい進んでしまう“新生姜”も、これだけ体によいと聞けば “心証が”よくなりますね(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「新生姜と油揚げの煮もの」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・食感と香りを生かすために炊き過ぎない。ほのかな苦みが気になる場合は、スライスして水でさっと洗った後に炊くとよい。
・油揚げが多めのほうが、油分が加わりまろやかになっておいしい。
・「新生姜の鼈甲煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・軽く茹でた後に炊く。新生姜は風味とさわやかな辛みを生かしたいので茹で過ぎない。一方、古根生姜は辛みが強く繊維質なので、鼈甲煮にする場合は金串などで全体を満遍なく刺した後、米のとぎ汁で長めに茹で、水にさらして辛みを抜いた後に炊く。
・煮汁がなくなるまで煮つめて仕上げるが、そのまま30分ほどおくと汁気が少し出てくる。作り置きする場合は、再度、火にかけ煮つめると味がぼけない。
「新生姜と油揚げの煮もの」(右)
【材料(3人分)】・新生姜(柔らかい部分) 80g
※新生姜の柔らかい部分は「
新生姜の甘酢漬け3種」を参照して買い求める
・油揚げ 1/2〜2/3枚
・出汁 200cc
・塩 少々(1〜2g)
・薄口醤油 小さじ2
・みりん 小さじ1/2
【作り方】1.新生姜は皮をむかなくてもよい。気になる場合は洗浄用スポンジの粗い面でこする程度で十分。スライサーで1mm厚さにスライスする。茎の付け根の赤い部分があったら、食べやすい大きさに切って加えてもよい。水でさっと洗って水気をきる。
2.油揚げは5mm幅×3.5cm長さに切る。
3.鍋に新生姜と油揚げを入れて出汁を注いで火にかける。調味料を加えて沸いたら弱火にし、2分ほど炊いて火からおろし、器に盛って供する。
「新生姜の鼈甲煮」(左)
【材料(作りやすい分量)】・新生姜(柔らかい部分) 100g
新生姜の柔らかい部分は「
新生姜の甘酢漬け3種」を参照して買い求める
・干ししいたけ 1枚
・昆布(3.5cm四方) 1枚
・出汁 100cc
・日本酒 大さじ3
・みりん 大さじ3
・砂糖 大さじ2
・サラダ油 少々
【作り方】1.新生姜は皮をむかなくてもよい。気になる場合は洗浄用スポンジの粗い面でこする程度で十分。1.5cm角に乱切りする。
2.鍋に湯を沸かし、新生姜を入れて1分ほど茹でてざるに上げる。
3.干ししいたけは砂糖(分量外)を少量加えた水にひたして、冷蔵庫など低温下で最低1時間以上もどす。しいたけがもどったら、もどし汁と分ける。もどし汁は砂などが混じっている恐れがあるので、一度クッキングペーパーでこす。しいたけの石づきは切り捨て軸を外し、笠の部分を4〜6等分する。
4.鍋に新生姜と干ししいたけのもどし汁、出汁、昆布、干ししいたけ、すべての調味料を加えて火にかける。沸いたら弱火にして、時々混ぜながら煮汁を煮つめて生姜にからめる。煮汁がほとんどなくなり、「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真のようになったら、サラダ油を数滴加えて全体にからめて火からおろし、器に盛って供する。作り置きする場合はそのまま30分ほどおくと汁気が少し出てくるので、再度、火にかけて煮つめると味がぼけない。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。