【松岡修造の健康画報】86歳の現役医師・帯津良一先生が実践する「攻めの養生」とは？

両手で作ったハートで表現しているのは、帯津先生が心の養生にいちばん効くと話す「ときめき」。先生が名誉院長を務める帯津三敬病院の屋上にて。　（松岡さん）スーツ、シャツ、ポケットチーフ、ベルト、靴／紳士服コナカ

帯津三敬病院名誉院長／日本ホリスティック医学協会名誉会長　帯津良一先生

帯津良一先生（おびつ・りょういち）
1936年埼玉県生まれ。1961年東京大学医学部卒業。東京大学医学部第三外科医局長、都立駒込病院外科医長を経て、1982年に埼玉・川越に帯津三敬病院を開業。2004年に東京・池袋に統合医学の拠点、帯津三敬塾クリニックを開設。両施設で西洋医学と中国医学などの代替療法を用いて、患者一人一人に合ったがん診療を実践している。体だけでなく、心と命も含めた人間まるごとをみるホリスティック医学を提唱。著書は現在100冊以上。全国から講演依頼が引きも切らない。

健診より大事なものって何ですか？── 松岡さん
「自分に合った養生法。それさえあれば多少数値が悪くても大丈夫です」──帯津先生

松岡　いきなりですが、先生の健康診断の結果はよくないと伺いました。

帯津　悪いですね。健診は医療従事者の義務なので年に2回受けますが、結果は私のところへ持ってくるなといっています（笑）。

松岡　そんな（笑）。みなさんご心配でしょう。大丈夫なんですか？

帯津　大丈夫。私のライフスタイルは免疫力を高めるものなので、少しくらい数値が悪くても問題ないんです。



病院内の道場の壁にかかっていた書「直心是道場（じきしんこれどうじょう）」は禅語で、素直な心自体が道場であるとの意。

松岡　免疫力を高めるライフスタイルとは、どんなものですか？

帯津　毎朝3時半に起きて5時に病院に入り、6時半に院内の道場へ行って、一人で太極拳をやる。その後は仕事で飛び回って、夕方6時になると晩酌。私は今日が最後だと思って生きているので、最後の晩餐ですね。

患者さんより死に近いところに立つために

松岡　スポーツでも、「これが最後の試合だと思ってやりなさい」などといいますが、なかなかその境地にはなれません。何歳からそういうふうに思えるようになられたんですか？

帯津　70歳のときですね。

松岡　70歳まで待たなきゃダメですか。

帯津　松岡さんは、まだだいぶありますね。

松岡　なぜ70歳だったのでしょう？

帯津　先が見えてきたからだと思いますね。今日が最後だと思えるようになって、世界を見渡してみたら、同じような人がたくさんいることがわかったんです。文章に残している人では、映画評論家の淀川長治さん。王 貞治さんは胃がんの手術を受ける前に「俺は大丈夫。今日が最後だと思って生きている」と話されていましたし、アップル社のスティーブ・ジョブズさんも講演でそのようなことをいっています。

「今日が最後だと思って飲むお酒は格別。私にとっては一番の食養生です」── 帯津先生

松岡　ジョブズさんの講演は僕も聴きました。心に響くスピーチでしたね。

帯津　はい。私の場合、患者さんの死の不安を和らげるために何ができるかをずっと考えていたという背景もあります。がん患者さんはどうしても死の不安が高まってしまうのですが、そうすると免疫力が低下して、病が進行してしまう。不安を完全になくすのは無理でも、どうにかして和らげたいと試行錯誤していたとき、青木新門さんの『納棺夫日記』に出会ったんです。素晴らしい本で、「死に直面して不安におののく人を癒やすことができる人は、その患者さんより一歩でも二歩でも死に近いところに立つことができる人だ」と書いてありました。私はそのとおりだと思い、患者さんより死に近いところに立つには、今日が最後だと思って生きるしかないと考えたんです。

松岡　そうだったんですね。アスリートは、この大会を最後に引退すると決意すると、ものすごくモチベーションが上がるものですが、最後の晩餐、最後の晩酌となると、やはり気分が高揚するものですか。

帯津　いやぁ、ものすごく嬉しくなってね。お酒をおいしく飲むのは、食養生としてもいいんですよ。