「うちはドクターも看護師さんもいい顔の人が多いんです」と帯津先生がいうと、「気づいてました！ そこも先生のときめきポイントですね」と松岡さん。人はみな亡くなった後、いい顔になるのはなぜか？
帯津 私が考える「攻めの養生」のゴールは、命のエネルギーを日々高め続けて、死ぬ日に最高潮に持っていって、その勢いであの世へ飛び込むことです。先に向こうへいっている人たちが「今の何だ？ 帯津か！」と驚くような死に方をしたい（笑）。
松岡 飛び込む！（笑）。先生は死を前向きにとらえているのですね。
帯津 ええ、前向きです。年を取ると死について考えざるをえない。それで年中考えていると、だんだん死後の世界があるような気がしてきて、楽しみになってくるんです。うちの病院で患者さんが亡くなると、私はご家族とともに枕元に座るんですが、時間とともに、亡くなったかたの顔がよくなるんですよ。
松岡 え！ 亡くなった後に表情が変化するんですか。
帯津 早い人で1～2分、長い人で1時間くらいですね。いい顔になったのを見届けたら、私は失礼します。医者から漫画家になった手塚治虫さんも、初めて患者さんの死に立ち会ったときのことを「患者さんの顔がすーっと変わって、仏様のようになった」「死というのはそんなに悪いことではないんじゃないかと思った」と書いています。以前対談をした立川談志さんも、「そうよなぁ、誰もけえってきたやつはいないからな。よほどいいところなんだろ」といっていましたね。
松岡 確かにそうですね。
帯津 だから私は、みんながいい顔になるのは、この世のお勤めを果たして、故郷へ帰れる安堵感が顔に表れるからじゃないかと思って。そうであれば、死後の世界もあるかなってね。でも、これについては、いろんな考えの人がいるので、みんながそう思ってくれなくてもいいんです。
松岡 僕は死んだことがないのでわかりませんが、いろいろな悩みや悲しみがなくなるなら、幸せなのかもしれないと思うことはあります。でも、それ以上に「生きているからこそ悩みも悲しみも味わえるんだ！」と、ポジティブにとらえたいと考えています。今日は先生とお話しさせていただき、大きな安心感に包まれました。悩まなくていい、これから死を迎えるまでの自分だけの戦略を立てろといわれている気がしました。
帯津 私は、松岡さんはいい顔をしているなぁと思いながら話していました。世界中どこに行ってももてるでしょう？ 一度どこかで飲みましょう。
松岡 ぜひ、お願いいたします！
修造の健康エール
帯津先生が中国医学と西洋医学の融合を意味する「中西医結合」を旗印に開業された40年前、気功や漢方はあまり世の中に知られておらず、治療に取り入れる医師もほとんどいなかったのだそうです。ご苦労も多かったはずですが、終始明るく笑っているお姿からは想像できません。
先生はがん診療を行うなかで認知症の研究もされ、その予防にはときめきに加えてコミュニケーションも大事だと気づかれました。
「それなら簡単だって思ったんです。心ときめく女性とお酒を飲み、別れ際にハグをすればいい。真面目な話、ハグは最高のコミュニケーションですから」。
楽しそうに話されるのを聞いていたら、心でハグされているような気持ちになりました。僕も自分のときめきチャンスをつかみにいきます！
松岡 修造（まつおか・しゅうぞう）
1967年東京都生まれ。1986年にプロテニス選手に。1995年のウィンブルドンでベスト8入りを果たすなど世界で活躍。現在は日本テニス協会理事兼強化本部副本部長としてジュニア選手の育成・強化とテニス界の発展に尽力する一方、テレビ朝日『報道ステーション』、フジテレビ『くいしん坊！万才』などに出演中。大人気シリーズ『修造日めくり』の最新作『まいにち、つながろう 心と心はノーディスタンス』は全ページ本人による音読（QRコード）付き。ライフワークは応援。
撮影／鍋島徳恭 スタイリング／中原正登〈FOURTEEN〉（松岡さん） ヘア＆メイク／大和田一美〈APREA〉（松岡さん） 取材・文／清水千佳子
『家庭画報』2022年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
