良好な関係を保つためにもデイサービスの利用を
「デイサービスに行きたくない」と認知症の人に拒まれてしまうのもよくあることです。このような状況が続くと「他人に介護をまかせている」という後ろめたさもありデイサービスの利用をためらう家族もいます。
最初に説明したように認知症の状態は固定されたものではないので、デイサービスに対する心持ちも一定ではないように思います。
父の場合も認知症の父の日常を追ったテレビのドキュメンタリー番組の中で「デイサービスに行きたくない」と拒む姿が映し出されていましたが、一方で「日本のデイサービスはすばらしい。スタッフは自分のことをよくわかってくれるし、爪まで切ってもらえるのは王様になったようだよ」と話すこともありました。
最初に本人と相性のよいデイサービスを選んでおくことが大前提ですが、通っている最中に拒まれることがあったら「気乗りしない日もあるよね」と行きたくない気持ちを受け止めてデイサービスを休ませてもよいでしょう。
そして、時間をつくって本人の希望を繰り返し聞くことが大事です。
「聞くこと」とは「待つこと」です。本人が話し始めるまで時間を差し上げる気持ちでじっと待つことが大切です。沈黙の時間もお互いにとっては大事なコミュニケーションの一つです。──和夫さん
本人が好きだったことを話題にすると会話が弾み、気持ちも通じる。洋さんが和夫さんの大事な愛車の話をすると和夫さんは目を輝かせた。写真提供/長谷川 洋さん洋さんは、「母はデイサービスに出かけたことを忘れるのに利用する意味はあるのでしょうか」という相談を受けたこともあります。認知症のお母さんは娘さんに“今日は一日中家にいた”というのだそうです。
家族にとってはがっかりする言葉ですが、それは認知症のお母さんが“穏やかな一日を過ごせた”ことを意味しているようにも思えます。認知症は暮らしの障害なので、一緒にいる時間が長くなると失敗する体験を共有することも多くなります。家族は認知症の人が失敗するたびに注意したり叱ったりすることが増え、もともとの関係性が壊れるおそれがあります。
認知症のせいで、このようなことが起こるのは実に残念なことです。離れていることで共有しないですむことはたくさんあります。親子の良好な関係を保つためにもデイサービスを利用していただくのがよいと思っています。
撮影/八田政玄 取材・文/渡辺千鶴
『家庭画報』2022年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。