「だってね、内藤さんは親御さんが亡くなって、15億円もの遺産を相続したのよ。すごいでしょ。それなのに、相続税はろくに払ってないって平気な顔をしてる。でもしつこく聞いたら、2000万円だけは納入したとしぶしぶ白状したけど、あり得ない話でしょ」
幸い追徴課税は来なかったらしいが、莫大な現金を手にした内藤さんの日常は激変した。まるで雪崩のように常識を覆す行動に出始めたのである。
私は直接彼女に会ったことがない。でも、サヤカさんからしょっちゅう話を聞くので、けっこう自分と同年齢の内藤さんについては詳しくなっていた。
サヤカさんによると若い頃の内藤さんはきれいだった。すらりとした長身で、スタイル抜群、目鼻立ちもすっきりと整っていた。旦那さんが、お見合いの席で一目惚れして結婚が決まったくらいだ。
だが、40歳を過ぎた頃から、彼女は太り始めた。際限なく太って、異常なほどの肥満体になった。普通の市販の洋服ではサイズが合わないので、いつもウエストがゴムになっていて伸縮する素材のパンツに長めのチュニックを着ていた。
友人たちとの食事会でも、料理が一人前では足らず、必ず何か追加を注文する。さらにビールをがぶ飲みして煙草をふかす。さすがにレストランで煙草を吸える時代ではなくなってきた。
サヤカさんたちは彼女の健康を案じていつも禁煙、禁酒、ダイエットをアドバイスした。それでも、返って来るのは強気の言い訳ばかり。
「私は定期的に主治医にチェックしてもらっているけど、どこも悪くないのよ」
「肥満は遺伝だから仕方ないわ。ほら、私の両親は両方とも太っていたじゃない」
「煙草はね、痩せたら止めるつもり。煙草吸っていると食欲がコントロールされて痩せられるから」などと、うそぶいていた。