夏おでん
夏日も増えてきたのになぜおでん? そう思われたかもしれませんね。おでんはコンビニエンスストアでも人気商品ですが、各社9月初旬に販売を開始し、3月末~5月頃には終了します。おでんは秋から冬のものと一般的には思われがちですが、夏にしか味わえないおでんもあります。
おでんと聞けば、既成概念が邪魔をして冬と同じ具材を想像してしまうので、夏のおでんに違和感が生じるのです。夏野菜の煮ものや炊き合わせ、冷製なら夏野菜の冷やし鉢という言い方だったら、おいしそう!となるのかもしれませんが、なんとなく薄っぺらい感じがして私は嫌いです(笑)。野菜を別々に炊くほうがよい場合もありますが、おでんのようにいろんな野菜を一緒に炊くことで生まれるおいしさがある、というのが私の言い分です。
写真をご覧になれば、私の意図がおわかりいただけると思います。常識を取り払い、今の季節ならではの野菜を使えば、夏においしいおでんがいくらでも考えられます。おでん専門店は夏も営業していますし、冷たいビールで夏おでんも、いいものです。
「
野菜おでん」で、味をよくしみ込ませるコツとして、長時間炊くよりも「炊いたら一度冷ます」ことの大切さを教えましたが、今日は、よく聞く「煮ものは大量に炊くとおいしくできる」について考えてみましょう。
私は「少量だと上手に炊けない」というほうが、正確なのではないかと思います。私たちプロでも、里いもを1個だけ炊けと言われれば、炊くことは可能ですが、10個以上炊いたときほどおいしくできません。
1個の里いもを炊くのにぴったりのサイズの鍋はないので、下茹での際の水も必然的に多くなり、炊く際も多めの出汁が必要になって、里いも自体の風味が抜けてしまいます。里いもの数と、それを茹でたり炊いたりするのに必要な液体量(水・出汁)は比例しません。里いもの数が増えるほど、液体量はいもといもの間の隙間を埋めるだけで十分になり、里いもの風味が抜けにくくなります。いも煮会などで大量に炊く際、水だけで出汁はいらないといわれるのは、素材の風味が満ち、持ち味が失われないからです。
炊く量が多くなるほど鍋も大きな分厚いものとなって熱容量が増えます。食材が増えると全体の温度がゆっくりと上がり、火を消した後もゆっくりと冷めて食材に味が含まれやすいのです。
今回の夏おでんでも使う調理法で、一部のトッププロが行っている大鍋仕事と小鍋仕事といわれるものもお教えしましょう。
大鍋仕事といいますが、仕込みの段階でまとめて炊いておいたものを、お客さまに出す際に、煮汁で温め直して供するというのが一般のプロのやり方です。
一方、一部のプロはここで小鍋仕事と呼ばれるひと手間を加えます。大鍋仕事で炊いておいたものを温める前に煮汁の味を確認し、小鍋に必要な量だけ小分けにして入れ、煮汁を昆布出汁やかつお出汁で薄めたり、日本酒を少し加えて温めます。少量の昆布、ガーゼで包んだかつお節や煮干し、焼いた白身魚の骨などを入れて旨みと風味を加えます。さらにはお客様ごとに好みの味に微調整します。
冷房の効いた部屋で熱い夏おでん、夏ならではの贅沢です。根菜類以外なら冷たく冷やしてもいいですね。野菜は材料表どおりでなくてもかまいません、家にあるものをいろいろ工夫してもおいしく食べられるはずです。夏は体を冷やす料理が多くなりがち。今年から夏おでんをご家庭の定番料理にいかがでしょうか。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「夏おでん」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・夏おでんは冬に比べて煮汁の醤油の量を減らし、軽い味にする。野菜が茶色くならないようにし、味をしみ込ませ過ぎない。
・おでんは炊けたら、ゆっくり冷ますことで味がしみ込む。長時間炊き続けるよりも、炊いて冷ますという工程を二度ほどくり返したほうが味を含みやすい。
・煮汁の上から紙蓋やラップをし、さらに落とし蓋をのせて冷ます。余熱が保たれ、煮汁も蒸発しにくい。
・味を含みにくいものは最初から炊き、煮くずれしやすいもの、退色しやすいもの、すぐに味を含むものは後から加えて炊く。
・「しらたき・新れんこん・冬瓜」、「かぶ・新玉ねぎ・新じゃがいも・新生姜」、「賀茂なす・とうもろこし・しいたけ・木綿豆腐」、「ズッキーニ・ゆば」の順で加えて炊く。
・焼きなす、パプリカ、フルーツトマト、ブロッコリーは別鍋でさっと炊く。
「夏おでん」
【材料(4〜5人分)】・おでんの煮汁(4〜5人分)
作りやすい分量:出汁1.8L、日本酒1カップ、みりん大さじ2、塩6g、薄口醤油大さじ3
※季節野菜は下記の材料を参考に好みで
・かぶ 適量
・とうもろこし 適量
・しらたき 適量
・新じゃがいも 適量
・新玉ねぎ 適量
・しいたけ 適量
・新れんこん 適量
・冬瓜 適量
・賀茂なす 適量
・ズッキーニ(緑、黄) 各適量
・ゆば(引き上げ湯葉を5〜6枚重ねて束にしたもの) 適量
・パプリカ(赤、橙) 各適量
・焼きなす 適量 「
焼きなすの醍醐味」参照
・新生姜(柔らかい部分) 適量
新生姜の柔らかい部分は「
新生姜の甘酢漬け3種」を参照して買い求める
・木綿豆腐 適量
・フルーツトマト 適量
・ブロッコリー 適量
・柚子こしょう(練り辛子でもよい) 適量
【作り方】1.かぶは葉茎を切って皮をむく。大きさによって縦に2つ〜4つに切る。蒸気が立った蒸し器にかぶを入れ、柔らかくなるまで10分ほど蒸す。とうもろこしは皮をむいてひげを取り、3つに切って蒸気が立った蒸し器入れ、8分ほど蒸す。
2.しらたきを下処理する。水に8%の酢(材料外)を加えた中にしらたきを3分つけて臭みを抜く。酢水から上げたしらたきを流水でもみ洗いして酢を流す。鍋に湯を沸かし、しらたきを入れて2〜3分茹でて水に放し、もみ洗いして酢を完全に抜く。適量を束ねて結ぶ。
3.新じゃがいもは水で濡らして軽く絞ったキッチンペーパーで包み、その上からラップでふんわりと包む。耐熱皿に入れて500Wの電子レンジで3〜4分加熱し、竹串が中心部に入るようになったらラップで包んだままおいて粗熱をとる。新玉ねぎは皮をむいて上下を切り落とし、耐熱皿に入れてラップをし、500Wの電子レンジで3分30秒ほど加熱しそのまま粗熱を取る。
4.しいたけは軸を切り取る。笠の表面に鹿の子に包丁目を入れ、裏返して軸を切り取ったひだ側にも鹿の子に包丁目を入れる。新れんこんは皮を薄くむいて2cm厚さの半月切りにする。鍋に湯を沸かして酢(湯1Lに対して酢大さじ2)を加える。新れんこんを食感が残るくらいに茹でて水に放し、冷めたらざるに上げて水気をきる。
5.冬瓜は「
冬瓜の揚げ煮」を参照して、適宜切って皮をむき、包丁目を入れて素揚げする。賀茂なすは「
賀茂なすの揚げ煮」を参照して、適宜切って皮をむき素揚げする。ズッキーニは「
夏野菜の揚げびたし、南蛮漬け」を参照して、適宜切って包丁目を入れ素揚げする。
6.ゆばは「
ゆばの蒲焼き」を参照して素揚げする。パプリカは「
パプリカの昆布押し、味噌漬け」を参照し、皮をむいて適宜切る。
7.フルーツトマトは皮を湯むきする。木綿豆腐は大ぶりに切る。新生姜は柔らかい部分を5mm厚さにスライスする。ブロッコリーは茎側から切り込みを途中まで入れ、手で裂いてから包丁で房に分ける。
8.大鍋におでんの煮汁を注いで、しらたき・新れんこん・冬瓜を入れて火にかける。沸いたら弱火にして10分ほど炊いて火を消す。紙蓋をして落とし蓋をのせ、30分以上そのまま冷ます。落とし蓋と紙蓋を外し、鍋にかぶ・新玉ねぎ・新じゃがいも・新生姜を加えて、再度、火にかける。沸いたら弱火にして5分ほど炊いたら、賀茂なす・とうもろこし・しいたけ・木綿豆腐を加えて3分炊いて火を消す。紙蓋と落とし蓋をのせ30分以上そのまま冷ます。ズッキーニとゆばを加えて火にかけ、全体をあつあつに温める。鍋の煮汁を別鍋に取り分け、フルーツトマト、ブロッコリー、焼きなす・パプリカの順に入れて、好みで分量外の日本酒、みりん、塩、薄口醤油などの調味料をたして、煮くずれないようにさっと炊く。練り辛子や柚子こしょうを添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。