賀茂なすドライトマト田楽、なすの皮とパプリカの炒め煮
賀茂なすの田楽は「
賀茂なす田楽2種」、「
賀茂なすのぶどう田楽」でも紹介しましたが、今回は趣向を変えて、皮をむいた賀茂なすをドライトマト田楽にし、バジルスプラウトを添えました。むいた皮は真っ赤なパプリカと合わせて炒め煮に。なす、トマト、パプリカ、バジル……、どこかで見たような組み合わせ? はい、ラタトゥイユに似ていますね(笑)。でも、味はしっかり和食です。
先達の料理人たちは、料理を作るという毎日のくり返しの中で、現状に満足せず、もっとおいしいものを、今までにないものをと絶えず工夫し続け、新たな料理や技術を生み出してきました。
「旨みが少ない食材をおいしく」「苦みやえぐみ、においを抑えて食べやすく」「堅い食材を柔らかく」「もっと色やつやをよく」「形をくずさずきれいに」、これらは問題解決型・課題完成型のアプローチで、料理や技術を新しく発想、開発する上での王道ではあります。
しかし、次々に新しい料理を創り出すことが求められる現在では、それだけでは限界があり、あっという間にネタ切れしてしまいます。まして、現代人は栄養摂取という目的のためだけでなく、楽しむために食事をします。プロは客を飽きさせずに楽しませ続けるため、次々に新しい料理を考え出さなければなりません。食材を手に取って食べ、発想が降りてくるのを待っているだけでは間に合いません。
ブレインストーミング提唱者であるアレックス・F・オズボーンの発想法を料理へ応用することがあります。オズボーンの発想法には(1)転用(新しい使い道は? 他分野への適用は?)、(2)応用(似たものは? 何かの真似はできないか?)、(3)変更(意味、色、機能、音、匂い、形を変えたら?)、(4)拡大(高さ、長さ、厚さを大きくしたら? 価値や材料を追加できないか? 誇張したら? 時間や頻度は?)、(5)縮小(小さく、軽く、弱く、低くできないか? 濃縮、省略、分割は? 何か減らすことができないか?)、(6)代用(人、物、材料、製法、場所を代用できないか?)、(7)置換(要素、形、配置、順序、ペースを変えられないか?)、(8)逆転(前後、左右、上下、順番、役割などを転換したら?)、(9)結合(合体したら? ブレンドしたら? 発想や目的を組み合わせたら?)があります。
この連載で1年間かけて紹介した料理は500種近くになると予想します。生半可なことではネタ切れしてしまうので、この発想法も駆使しています。
上の画像は「
賀茂なす田楽2種」です。見比べるとわかりやすいのですが、今日の料理であれば、(1)(2)(3)(6)(7)の発想法を組み合わせたものになります。ただ、頭を抱えて知恵を絞るだけでなく、上手に発想する。これは料理だけでなく日々の生活や仕事にも生かせるかもしれませんね。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「賀茂なすドライトマト田楽」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・なすを油焼きにする。なすと油は相性がよいが、なすが油を吸い過ぎないよう工夫する。
・揚げると皮が堅くなるので皮をむいてから揚げるか、油焼きする。むいた皮は油を使って炒め煮にする。
・「なすの皮とパプリカの炒め煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・なすの皮は繊維を斜めに切ることで程よい食感になる。
・なすの皮は油を吸い過ぎないように、ねぎと生姜を炒めた後に加える。
・種を抜いた赤唐辛子を一緒に炒めるか、仕上げに一味唐辛子をふって刺激を加えてもよい。
「賀茂なすドライトマト田楽」
【材料(2人分)】・賀茂なす(米なす、丸なすでもよい) 1個
・サラダ油 適量
・玉味噌(白) 適量
西京味噌500g、卵黄5個、砂糖30g、日本酒200cc 「
生姜味噌」参照
・フルーツトマトのドライトマト(無塩。2mm幅×1cm長さに切る) 適量
・バジルスプラウト(普通のバジルでもよい) 適量
【作り方】1.賀茂なすの両端を切り落として全体の皮を縦に薄くむき、横2つに切る。下のほうが膨らんで大きいので、真ん中より多少下側で切ると同じ量になる。
2.賀茂なすは肉質がしっかりしているので、火の通りをよくするため、フォークや竹串で両面をまんべんなく突いておく。
3.賀茂なすを油焼きにする。なすの表裏の両面に刷毛でサラダ油を塗り、表裏返しながらオーブントースター(グリラーでもよい)でゆっくり焼く。表面にきれいな焦げ目がつき、中がふっくら焼き上がるように火を入れる。表面が焦げそうになったら油を重ね塗りしながら焼く。焦げ目はついたが中まで火が入っていない場合は、アルミホイルをかぶせて焼くとよい。揚げ焼きにしてもよい。「
賀茂なす田楽2種」参照。
4.火が通ったら、クッキングペーパーで表面の余分な油を拭き取り、電子レンジで温めた玉味噌(堅いようであれば出汁(材料外)でのばして温める。甘いのが好みなら、このときにみりんを加える)をなすの上面に広げ、再度オーブントースターに入れて焦げ目をつける。なす本来の味を楽しみたい場合は、味噌の量を減らし、その分、温めた美味出汁(材料は「なす皮とパプリカの炒め煮」を参照)を少量かけてもよい。
5.賀茂なすを器に盛ってドライトマトを散らし、バジルスプラウトを添えて供する。
「なすの皮とパプリカの炒め煮」
【材料(2人分)】・賀茂なすの皮 1個分
・パプリカ(赤) 1/6個(30g)
・サラダ油 小さじ1強
・生姜(みじん切り) 小さじ2
・ねぎ(みじん切り) 大さじ1
・美味出汁 30cc (出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合)
【作り方】1.賀茂なすの皮は3mm幅×3cm長さの斜め切りにする。
2.パプリカは種とヘタを除き、3mm幅×3cm長さに切る。
3.フライパンを火にかけ、サラダ油をひいて生姜とねぎを入れて炒める。なすの皮とパプリカを加えて炒め、油がなじんだら美味出汁を入れて強火でからめる。汁気がなくなったら火からおろして器に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。