たたききゅうり・生姜醤油、もろきゅうり・もろみ味噌とせん切りかっぱ巻き、蛇腹(じゃばら)きゅうり・いり酒
みずみずしくパリッとした歯ごたえのきゅうりは、暑くなるこれからにぴったりの野菜です。サラダはもちろん、酢のもの(「
きゅうり塩もみの酢のもの」、「
蓮いものきゅうり緑酢和え」)、和えもの(「
きゅうりとしいたけの合い混ぜ」)、漬けもの(「
夏野菜のぬか漬け」)だけでなく、炒めもの(「
きゅうりの炒め煮」)や飯(「
夏野菜の冷や汁」)などにも使えて、いろいろな味が楽しめます。
きゅうりといえば通年出回る野菜の代表格ですが、本来の旬は6月〜9月頃です。その時季に出回る露地ものは、ハウスものの2倍ほどのビタミンCを含んでいます。完熟すると30cmほどまで成長して皮が黄色くなるので、「黄瓜(きうり)」が名前の語源だとされます。中国から日本へ伝わり、江戸時代頃までは黄瓜と呼ばれ、その後中国名の「胡瓜」という漢字を当てるようになりました。
(奥)四葉きゅうり、(手前)もろきゅうり、(花付き)花丸きゅうり。スーパーマーケットなどで見かけるきゅうりは、皮の色が緑でいぼが白色の、白いぼきゅうりがほとんどです。栽培しやすく流通性に優れ、市場の9割以上を占めています。みずみずしくて苦みが少なく安定した人気があります。
緑色の皮に張りがあり、いぼがとがっているものが新鮮です。曲がっていても味は変わりませんが、果肉が堅くしっかりとして太さがなるべく均一のものがよいでしょう。
最近はあまり見かけませんが、昔は白い粉のついた「ブルームきゅうり」がありました。ブルームはきゅうりから分泌される天然物質で、表面を保護して水分の蒸発を防ぐ働きをします。一見、農薬のようにも見えるため、ブルームができない品種が作られ主流になりました。ただ、今のきゅうりは皮だけ厚くて中の果肉は柔らかいため歯ごたえがなく、しっかりした歯ごたえがある昔ながらのブルームつききゅうりがよいとする声もあります。
今回は2種類のきゅうりを使いました。四葉(すうよう)きゅうりは中国系の大ぶりな品種です。表面にいぼが多くてとげとげしく、皮が濃い緑でちりめん状になっています。皮は柔らかく、香りも味も濃厚で歯切れが良いのが特徴です。もろきゅうりは若採りしたきゅうりや、専用品種として栽培した8~12cmほどの小さいきゅうりの総称です。
きゅうりを調理する際の小技や、醤油より歴史が古い室町時代に考案された万能調味料「いり酒」の作り方もお教えします。旬のきゅうりを繊細に、ワイルドに料理して、今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「たたききゅうり・生姜醤油」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・四葉きゅうりはいぼがとがっているので、塩をまぶしてまな板の上で板ずりする。塩の効果で青臭さも抜ける。
・たたききゅうりにすると、包丁で切ったときよりも味のからみがよくなる。
・体重をかけて手のひらの手首に近い部分できゅうりをつぶす。1本まるごとがやりにくかったら、3つに切ってからつぶすと力が少なくて済む。すりこ木や麺棒でたたいてもよい。
・生姜醤油の代わりに辛子醤油や梅肉で和えてもよい。
・「もろきゅうり・もろみ味噌とせん切りかっぱ巻き」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・合わせた具材は、食べる直前にもろきゅうりにのせる。時間がたつと具材の塩分できゅうりから水分が出る。
・せん切りかっぱ巻きのきゅうりは、せん切りにした後、水に放さずに海苔で巻く。きゅうりの風味が生き、海苔もしけらない。
・「蛇腹きゅうり・いり酒」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・蛇腹状の切れ目を入れる際、手前に割り箸を置くと包丁の刃が止まり、下まで切り落とすことがない。包丁を止める感覚を覚えたら、割り箸がないほうがやりやすくなる。
・一般的には塩水につけてしんなりさせるが、塩を入れた昆布出汁につけることで同時に旨みも加える。
・きくらげの酢醤油漬けは少量では作りにくい。日持ちするのでまとめて作り、冷蔵庫で保存する。そのままでもよい酒肴になるが、和えものや酢のものなどに加えてもよい。
「たたききゅうり・生姜醤油」(上)
【材料(2人分)】・四葉きゅうり(普通のきゅうりでもよい) 1本
・塩 適量
・油揚げ 1/3枚
・濃口醤油 小さじ1
・おろし生姜 5g
【作り方】1.四葉きゅうりを板ずりする。四葉きゅうりに塩を手でまぶして、まな板の上に横に置く。手で押さえながら転がして板ずりする。水で洗って布巾で水気を除く。
2.まな板の上に板ずりした四葉きゅうりを置き、体重をかけて手のひらの手首に近い部分できゅうりをつぶす。1本まるごとがやりにくかったら、あらかじめ3つに切っておくと力が少なくて済む。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。両端を切り落として、食べやすい大きさに切る。
3.油揚げは開いてオーブントースターでこんがり焼き、8mm幅×3.5cm長さに切る。
4.生姜醤油を作る。小さなボウルなどに濃口醤油とおろし生姜を入れて混ぜる。
5.ボウルに四葉きゅうりと油揚げを入れて混ぜる。生姜醤油を加えて和え、器に盛る。
「もろきゅうり・もろみ味噌とせん切りかっぱ巻き」(左)
【材料(2人分)】もろきゅうり・もろみ味噌・もろきゅうり 1本
・もろみ味噌 少々
・トマト(5mmのさいの目切り) 少々
・青じそ(5mm四方に切る) 少々
・みょうが(みじん切り) 少々
・花穂じそ(好みで) 少々
・もち麦(好みで) 少々
・塩昆布(みじん切り) 少々
・オリーブ油 小さじ1/2
【作り方】1.もろきゅうりは縦半分に切り、種の部分をティースプーンの先でUの字に除く。
2.もち麦は沸いた湯に入れて、途中で混ぜながら10分ほど好みの堅さに茹でる。ざるに上げ、水をためたボウルにざるごとつけて流水でぬめりを流し、水気をよくきる。
3.ボウルにトマト、青じそ、みょうが、花穂じそ、もち麦を入れて混ぜる。もろみ味噌と塩昆布で味をつけ、オリーブ油を加えて和える。
4.1のもろきゅうりの種を除いた部分に3をのせて器に盛る。
せん切りかっぱ巻き・きゅうり 1本
・焼き海苔 1/2枚
・わさび(市販品のチューブ入りわさびでもよい) 適量
・濃口醤油 適量
【作り方】1.きゅうりは櫛刃を付けたスライサーで1mm角×6cn長さのせん切りにする。
2.1をボウルに入れ、わさびを好みの量加えて和える。
3.巻きすの上に焼き海苔を敷き、2をのせて海苔巻きの要領で巻く。一口大に切って器に盛る。濃口醤油をつけて食べる。
「蛇腹きゅうり・いり酒」(右)
【材料(2人分)】・きゅうり 1本
・昆布出汁 400cc
・塩 12g(昆布出汁の3%)
・いり酒 適量
作りやすい分量:日本酒360cc、梅干し2個、濃口醤油70cc、みりん15cc、かつお節5g
・きくらげの酢醤油漬け 適量
作りやすい分量:生きくらげ(乾物を水でもどしたものでもよい)70g、酢24cc、濃口醤油12cc、オイスターソース8cc、砂糖4g、サラダ油4cc
【作り方】1.蛇腹きゅうりを作る。きゅうりをまな板の上に横に置き、手前にきゅうりと並行に割り箸を置く。包丁の刃が割り箸に当たるまで、包丁を少し斜めにして1〜2mm幅で切り込みを入れていく。裏返して同様に斜めに切り込みを入れる。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
2.昆布出汁をボウルに注ぎ、塩を加えてよく混ぜ、両端を切り落とした1を漬ける。5〜6分たったら引き上げ、クッキングペーパーで包んで水分を除く。
3.いり酒を作る。ボウルに日本酒を注ぎ、指で軽くつぶした梅干しを入れて30分ほどおいた後、鍋に移して火にかける。沸いたらごく弱火にして半分の量になるまで煮つめる。濃口醤油とみりんを加え、沸いたらかつお節を加えて火からおろし、30分以上おく。クッキングペーパーでこしてから使う。日持ちするので冷蔵庫で保存し、酢のものや和えもの、刺し身などに用いる。
4.きくらげの酢醤油漬けを作る。生きくらげはさっと茹でてざるに上げ、3mm幅のせん切りにして保存容器に入れる。ボウルにすべての調味料とサラダ油を加えてよく混ぜ、きくらげにかけて冷蔵庫で1日保存して味を含ませる。
5.2を半分に切る。器に円を描くように包丁目を広げて盛りつける。真ん中に酢をきったきくらげの酢醤油漬けを盛る。きゅうりにいり酒を適量かける。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。