さて、では犬に与える食事はいったい何がベストなのだろうか。先にも書いた通り長い愛犬生活の中、その答えを見つける旅をして私はいろいろなことを知った。様々なドッグフードを使ってきてどれもがそれなりに良かったものの、もっと優れた食事があるはずだと、調査、検討、検証を繰り返してきた。
数十頭の立派な土佐犬を育成している愛好家が、養豚場から出るブタの生の内臓を犬に与えていたのは驚いたが、獣医学的には寄生虫が心配だった。牧場直送の加熱処理をした牛の内臓のミンチを使用して良好だったこともあったが、ある日異物を発見し、それは錆びた金属だったので使用をやめた。牛は柵などに使われる釘などの鉄製品を飲み込む癖があるのだ。
手作りごはんを中心にしたこともあった。馬肉を茹でて適量の炭水化物と野菜を混ぜ、カルシウム剤と総合ビタミン剤を加えてみた。しかし凝れば凝るほど結果は思わしくなかった。
現在のスタイルは“名の通ったメーカー”の“年齢ステージに合ったドッグフード”に茹で肉をトッピングし、低脂肪牛乳をかけている。全部平らげ終わったら歯に付いた食べカスをとるために馬のアキレス腱の日干しを一本与える。一応言っておくが、蹄(ひづめ)は決して与えないこと。奥歯を破折してしまう患者が後を絶たないのだ。
このシンプルな食事で5代目ドーベルマンのビクターは大きく成長し、まだ2歳半なのに体重60キロになった。ちなみに同胎犬たちは45キロ程度だという。この調子でいくと5歳で65キロを超えるだろう。犬をかっこよく育て健康を維持する秘訣はヘンテコではない当たり前の食事、毎日の十分すぎるほどの運動、適切な日光浴、そして歯を清潔に保つことだと思う。参考にしていただきたい。
野村潤一郎(のむら・じゅんいちろう)
野村獣医科Vセンター院長。東京・中野にある病院は365日無休。大勢のスタッフとハイテク医療機器が揃うが、院長の手術の腕と本物の動物愛が病院の真髄。自らも犬猫だけでなく、爬虫類や両生類、淡水魚、昆虫まで飼育する筋金入りの動物マニア。この動物たちにとっての最後の砦に患者は全国から訪れる。
『家庭画報』2022年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。