初夏の酢のもの3種
気温が上がってくると、さっぱりした食べものが欲しくなります。食欲がわかない時でも食べやすく、なおかつ味覚を刺激して食欲を増進してくれる料理といえば、酢のもの。夏バテ対策にぴったりですね
食欲増進効果だけでなく、酢に含まれる酢酸は体内でクエン酸に変わり、疲労の原因となる乳酸の生成を抑え、分解して疲労回復を早める効果があります。他にも血圧を下げる作用、ダイエット効果も期待できます。
初夏の酢のものは食材の食感を生かし、酸味は程よく、旨みは控えめにするのがコツです。濃い旨みの黄身酢や酢味噌、ごま酢クリームを使う場合は量を少なめにし、代わりに香味野菜の風味や柚子こしょう、わさびのような刺激を加えます。
今日はかぶの酢のものを、北宋時代の輪花鉢(りんかはち)に倣った器に盛りました。「
ココナッツ求肥(ぎゅうひ)」でお話ししましたが、かつて茶人たちは朝鮮半島の雑器を茶碗に使ったり、中国に祥瑞(しょんずい)を発注したり(「
おかひじきのひたし、豆腐の味噌漬け和え、梅酢和え」)、南蛮貿易でもたらされた品々を器に流用したりしました。何か新しいものを取り入れて、新鮮で趣のある試みを加え、伝統を実践しつつ革新を求めるという精神です。
この連載では多くの酢のものを紹介してきましたが、その中にはサラダ的なものも含まれています。日本料理でサラダ?と違和感を覚えられた読者もいらっしゃったかもしれませんが、今の時代に野菜料理を考える上で、生野菜は無視できません。
「
グリーンボールの塩もみ、焦がし焼き」で述べたように、もともと日本では野菜を生で食べる習慣はほとんどなく、煮たり、漬けものにするなどして食べていました。その延長にある日本料理には生野菜の料理が少なく、そこで酢のものをサラダの一つに見立てて取り入れる試みをさせていただいた次第です。
今日は木曜日、「木曜は、さぁ、酢day(サーズデイ)!」(笑)。酢のものを作って、今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「かぶときゅうりのごま酢和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘味 ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・かぶもきゅうりも、塩もみの塩加減がポイント。塩辛過ぎると、後で塩を抜かなくてはならなくなる。しんなりする最小限の塩で下味をつける。
・酢のもののコツは水っぽくならないようにすること。塩をふり水気を絞ったものに、調味した酢をかけるだけでは水っぽさは消えない。だからといって味の濃い調味酢をかけると素材の味が消えてしまう。塩をふって素材の水分をよく絞った後に、酢洗い調味酢を全体にまぶして、その後、再度絞る。もう一度、調味酢をかけるとおいしく仕上がる。
・生姜の絞り汁を適量たして、刺激を加えてもよい。
・「かぶとわかめの柚子こしょう和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・塩蔵わかめ、乾燥わかめは水でもどして使うが、もどし過ぎに注意する。食感や風味、旨みが失われるだけでなく、わかめに含まれる水溶性の食物繊維や一部のビタミン群も失われてしまう。
・酢のもの、和えものは、下準備は先にしておき、供する直前に調味酢や和え衣を加える。合わせた瞬間がもっとも美味で、後は時間の経過とともに食味は落ちていく。
・「トマト・きゅうり・わかめの酢のもの」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・食べる直前に土佐酢で和える。和えて時間が経過すると、具材の食感が失われると同時に水っぽくなる。
「かぶときゅうりのごま酢和え」(左)
【材料(2人分)】・かぶ(中) 1個
・きゅうり 1本弱
・塩 適量
・みょうが(せん切り) 1個 「
みょうがの切り方」参照
・土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
・ごま酢クリーム 大さじ1
作りやすい分量:白ごまペースト(市販品)50g、酢大さじ3、砂糖大さじ3弱
【作り方】1.かぶは葉茎を除き、皮をむいて縦に4等分する。繊維を断つように2〜3mm厚さの薄切りにする。かぶをボウルに入れ、薄く塩をふって混ぜ10分ほどおく。かぶから水分が出たら少しずつ両手で絞る。布巾などで絞ってもよいが、絞り過ぎにならないよう気をつける。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
2.きゅうりを2mm厚さの小口切りにする。ボウルに入れ、薄く塩をふって混ぜ10分ほどおく。きゅうりから水分が出たら少しずつ両手で絞る。「
きゅうり塩もみの酢のもの」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
3.ボウルにかぶときゅうりを入れ、土佐酢を加えて洗うように混ぜ、再度、両手で絞る。
4.3をボウルに戻して、みょうがのせん切りを加える。ごま酢クリームを加えて和え、器に盛って供する。
「かぶとわかめの柚子こしょう和え」(右)
【材料(2人分)】・かぶ(中) 1〜1と1/2個
・塩 適量
・灰干しわかめ(普通の乾燥わかめ、塩蔵わかめでもよい。もどした状態) 20〜25g
・ニューサマーオレンジ 30g
・土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
・柚子こしょう酢 適量
土佐酢小さじ1、柚子こしょう小さじ1/2(好みで)
【作り方】1.かぶは葉茎を除き、皮をむいて縦に6〜8等分する。かぶをボウルに入れ、薄く塩をふって混ぜ15分ほどおく。かぶから水分が出たらクッキングペーパーや布巾などで包んで絞る。
2.灰干しわかめは水をたっぷり入れたボウルに入れて、灰を手早く洗い流す。水が濁らなくなるまで何度か水を替えて手もみ洗いし、ざるに上げる。普通の乾燥わかめの場合は5分ほど水でもどし、ざるに上げて水気をきる。塩蔵わかめを使う場合は水につけて塩抜きをする。鍋にたっぷりの湯を沸かし、わかめを入れ2秒ほど茹でたら冷水に放す。冷めたらすぐにざるに上げて水気をきる。わかめをまな板に広げ、真ん中にある茎の部分に沿って包丁を入れて茎を除き、食べやすい大きさに切る。茎は和えものなど、別の料理に使う。茎が気にならない場合はそのまま使ってもよい。
3.ニューサマーオレンジは皮と薄皮をむいて小さくほぐす。
4.ボウルにかぶとわかめを入れて混ぜ、土佐酢を加えて洗うように混ぜ、両手で絞って元のボウルに戻す。ニューサマーオレンジを加えて混ぜ、器に盛る。柚子こしょう酢を好みの量かけて供する。
「トマト・きゅうり・わかめの酢のもの」
【材料(2人分)】・きゅうり 1と1/2本
・塩 適量
・灰干しわかめ(普通の乾燥わかめ、塩蔵わかめでもよい。もどした状態) 25g
・フルーツトマト 1/2個
・新生姜(せん切り) 適量
・土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
【作り方】1.きゅうりは「かぶときゅうりのごま酢和え」のプロセス2と同じように調理する。
2.灰干しわかめは「かぶとわかめの柚子こしょう和え」の2と同じように調理する。
3.フルーツトマトは皮を湯むきして1.5cm角に切る。
4.ボウルにきゅうりとわかめを入れて混ぜ、土佐酢を加えて洗うように混ぜ、両手で絞って元のボウルに戻す。せん切りの新生姜とフルーツトマトを加えて混ぜ、器に盛る。新しい土佐酢をかけて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。