蜜3種 青梅、赤じそ、生姜
青梅が店頭に並び出しました。しばらくして梅が熟す頃になると、今度は赤じそが出てきます。青梅のカリカリ漬け、青梅蜜、梅酒、小梅漬け、梅干しと梅仕事の始まりです。いつもの仕事とは違って、梅やしその香りに包まれて行う作業は、季節を実感できて幸せな気持ちになります。
六雁では、夏の名物かき氷(「
かき氷自家製蜜」)で使う、青梅蜜をはじめとする蜜作りが今、真っ盛り。生姜蜜や生の実山椒を使った実山椒蜜は既に完成し、これから青梅蜜、赤じそ蜜を仕込みます。これらの蜜はかき氷だけでなく、水やソーダで割れば、見た目も涼しげなドリンクに変身。シャーベットにもなります。
梅酒の仕込みも今の時期です。是非、今年はチャレンジしてみませんか。梅が出回る期間はとても短く、6月いっぱいくらいであっという間に終わってしまいます。お店を頻繁にのぞいて入荷を確認し、まとめて仕込みましょう。
梅は日本人の食卓に欠かせない食物のひとつです。中国原産とされ、奈良時代以前には既に日本に伝わり、当初は観賞用だったようです。平安時代に食用の梅干しが作られましたが、食べものというよりも貴重な薬として扱われたようです。
粒が大きく皮が薄くて肉厚な南高梅(なんこううめ)や、主に関東を中心に出回る白加賀梅(しろかがうめ)以外にも、粒の小さな小梅、青く未熟なうちに収穫して梅酒などに使う青梅(古城梅(こじろうめ)が有名)、ある程度色づくまで熟してから収穫し、梅干しに使われる完熟梅などいろいろなタイプがあります。未熟な梅の種には体に有害な成分があるので生食はできず、加熱するかアルコール漬けや塩漬けにします。
しそについては「
夏野菜のしそ包み」や「
穂じそのいり煮(佃煮)、しそ味噌」でもお話ししましたが、葉が緑色の青じそと赤紫色の赤じそがあります。青じそは通年出回っていますが、赤じそが出回るのは梅干しを漬け込む6月~7月中旬頃に限られます。
赤じそ。赤じそは梅干しやしば漬け(「
即席しば漬」)など漬けものの色づけに利用されることが多く、乾燥させたふりかけでもおなじみですね。梅干しに使う葉が縮れている縮緬(ちりめん)じそが一般的ですが、葉が縮れていないタイプもあります。青じそよりもあくが強く、赤い色素であるアントシアニンは酸と反応して赤く発色します。
今日は3種の蜜を紹介します。三蜜、字は違いますが、ここ数年、何度も見聞きした言葉ですね。「三密」はもともと仏教用語で、密教の修法である身密(しんみつ)・口密(くみつ)・意密(いみつ)の総称です。
武道の“心技体”ではありませんが、今回のレシピで“技”を習得し、“心”を込めて家族の“体”だけでなく“心”も満たす蜜を作ってみませんか。心晴れやかに、今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「蜜3種 青梅、赤じそ、生姜」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み 塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・青梅蜜はグラニュー糖だけでエキスを抽出する。青梅の風味がストレートに出ているので、さまざまな料理に応用できる。はちみつなどは、アレンジする際に加える。
・青梅蜜用の青梅は、皮に針打ちをしてエキスが出やすいようにする。針打ちしておくと、残った梅を蜜煮などにする際も皮が破れにくい。
・青梅は、一度冷凍した後のほうが短時間でエキスが出るが、青梅の香りは落ちる。
・梅酒を仕込む際の氷砂糖は控えめにする。一度甘くした梅酒の甘みは、後からは薄まらない。甘めが好きなら、飲む際に青梅蜜を加えて好みの甘さにする。白蜜を加えると梅酒の味が弱くなる。
・梅酒は光を通さない黒い布などで覆って冷暗所で保存。光が当たると褐変し風味も悪くなる。
・赤じそ蜜を作るとき、青じそを少量加える。青じそは赤じそと成分が似ているが、味・香りともに赤じそより強く出る。
・赤じそ蜜を仕込む際はりんご酢で発色させ、使うときにレモン汁などを加えて酸味と風味をたす。
・生姜蜜は、新鮮な香りの新生姜と辛みの強い古根(ひね)生姜を好みでブレンドして作る。新生姜を食べるわけではないので、繊維立った部分でよい。柔らかい部分は他の料理に使う。
「青梅蜜」(右)
【材料(作りやすい分量)】・青梅 1kg
・ホワイトリカー 適量
・グラニュー糖(A) 1.3kg
・グラニュー糖(B。追加分) 300~400g
※作り置きできる。冷蔵庫で保存。
【作り方】1.青梅は鮮度のよい、実の堅いきれいなものを選ぶ。洗って2~3時間水に浸してあくを抜く。乾いた布で1つずつ丁寧に拭いて、産毛と水気を除く。なり口(へた)を竹串などで除く。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
2.青梅の皮全体を、針を束ねた道具や剣山でまんべんなく突いて、エキスが出やすいようにする。
3.カビなどが発生しないように青梅を消毒する。ボウルに2を入れ、ホワイトリカーを適量かけて全体にまぶし、ざるに上げる。蓋ができる広口瓶などを用意する。瓶は洗浄後、熱湯を注いで消毒し、さらにホワイトリカーを少量注いでゆすぐように瓶を回して、ホワイトリカーは出す。
4.消毒した瓶に青梅とAのグラニュー糖を交互に、最後がグラニュー糖になるように入れて蓋をする。遮光のために厚めの黒い布などで包んで冷暗所で保存する。1日に2回、青梅から出たエキスが青梅全体にかかるように瓶を揺すり回す。1週間もすると、「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真のように、青梅がしぼんでシワがよりエキスが出る。
5.グラニュー糖が完全に溶けたら、梅を取り出して蜜と分ける。蜜は冷蔵庫で保存する。加熱殺菌すると香りがとんでしまう。長期保存する場合は冷凍する。残った青梅に追加分のBのグラニュー糖300~400gをまぶして、瓶に入れ、4と同様に毎日混ぜて保管すると、さらに蜜がとれる。
「梅酒」(左)
【材料(作りやすい分量)】・青梅 1.7kg
・氷砂糖 750g
・ホワイトリカー 1.8L
【作り方】1.青梅は「青梅蜜」の1と同じように下処理する。針で刺す必要はない。
2.「青梅蜜」の3と同じように洗浄消毒した広口瓶に青梅と氷砂糖を交互に入れ、静かにホワイトリカーを注いで蓋をする。遮光のために厚めの黒い布などで包んで、光が当たらない温度差の少ない涼しい場所で2〜3年保存する。
3.飲む際、甘めが好きな場合は青梅蜜をたす。
「赤じそ蜜」
【材料(作りやすい分量)】・赤じそ(枝から外した葉のみ) 380g
・青じそ 20g
・水 1.5L
・グラニュー糖 400〜500g(好みで加減)
・りんご酢 120〜150cc(好みで加減)
※作り置きできる。冷蔵庫で保存。
【作り方】1.赤じそは枝から葉を摘み、泥がついている場合があるので大量の水でよく洗う。ざるに上げ、水気をきる。青じそも洗って水気をきる。
2.大きめの鍋に分量の水を沸かし、赤じそと青じそを入れる。一度で湯に入りきらなかったら、数回に分けて菜箸などで押さえて入れる。沸いたら、中火で5〜10分ほど煮出す。色素が出きったらざるでこす。ざるの上から木べらなどでしそを押して絞る。
3.ざるでこした抽出液を、クッキングペーパーで再度こして鍋に戻す。グラニュー糖を加えて火にかけ、砂糖が完全に溶けたら火を止める。粗熱が取れたら、りんご酢を加えて発色させ、完全に冷ます。蜜は冷蔵庫で保存する。長期保存する場合は冷凍する。
「赤じそジュース」(右)
【材料(2人分)】・赤じそ蜜 70cc(好みで加減)
・水(炭酸水でもよい) 280cc
・レモン汁(好みで) 適量
【作り方】1.赤じそ蜜にレモン汁を加えて、水で割って供する。
「赤じそシャーベット」(左)
【材料(2人分)】・赤じそ蜜 160cc(好みで水で薄める)
・レモン汁(好みで) 適量
【作り方】1.ボウルに赤じそ蜜を入れ、レモン汁を適量加える。冷凍庫に入れる。
2.冷凍庫から出し、泡立て器でかき混ぜて滑らかにしたら、再度冷凍庫に入れる。これを10〜15分おきに4〜5回、固まるまでくり返す。
3.完全に凍ったら、冷凍庫から出してスプーンでとって器に盛って供する。
「生姜蜜」
【材料(作りやすい分量)】・生姜 60g
・水 360cc
・グラニュー糖 400g
・赤唐辛子 1/2本(輪切り)
・水あめ 10g
※作り置きできる。冷蔵庫で保存。
【作り方】1.生姜は新生姜の繊維立った部分と古根(ひね)生姜を合わせて使う。生姜はせん切りにする。辛みを強調したければ、古根生姜を多めにする。新生姜の部位については「
新生姜の甘酢漬け3種」参照。
2.鍋に1の生姜と赤唐辛子、グラニュー糖、水を加えて火にかけ、沸いたらごく弱火にする。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
3.10分ほど炊くと生姜の風味と辛みが蜜に移る。水あめを加えて、蜜にとろみが出たら火からおろし、そのまま冷ましてこす。使う際におろしたての生姜(分量外)を適量加えてもよい。
「生姜の蜜煮」(左)
1.生姜蜜を作る際に蜜をこして残った生姜は、生姜の蜜煮として甘味の材料に使える。刻んで「
焼きなすアイスクリーム」や「
かるかん3種」、「
浮島2種」などに加えてもよい。
「ジンジャーエール」(右)
【材料(2人分)】・生姜蜜 70cc(好みで加減)
・炭酸水 280cc
【作り方】1.生姜蜜を炭酸水で割って供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。