もやしと豆苗(とうみょう)のひたし、生姜ごま和え、辛子和え
今回の料理はもやし、豆苗、クレイジーピー(えんどう豆の幼葉)、花椒菜(かしょうな)、レッドマスタードとスプラウト尽くしです。スプラウトとは発芽直後の野菜の新芽のことで、発芽野菜、新芽野菜とも呼ばれます。最近では多くの野菜のスプラウトが登場し、栄養分が豊富であることもあり、人気が高まっています。
写真左(左上)四川花椒菜。写真右(右上)クレイジーピー。ほかにもたくさんのマイクロハーブがある。植物が発芽し成長を始めると、種子の状態のときにはなかった種類のビタミンや、その他の栄養分を自分で合成するようになります。例を挙げれば、えんどう豆が発芽した豆苗は、種子の状態と比べてβ-カロテンが31倍、ビタミンEが16倍、ビタミンKが13倍、葉酸が5倍に増加します。さらに、それまで存在しなかったビタミンCも含まれています。
スプラウトには、生育の仕方によって貝割れタイプともやしタイプがあります。貝割れタイプは暗室で発芽させた後、緑化させます。色・形・大きさなど様々な種類が商品化され、身近なところでは貝割れ菜、豆苗、そば、ブロッコリー、マスタード、クレス、レッドキャベツなどがあります。
(右)豆苗、(左上)緑豆もやし、(左下)豆もやし。もやしタイプは暗室で育て、緑化していません。各種もやし、アルファルファなどがあります。緑豆もやしは、緑豆の種子を発芽させた国内で主流の一般的なもやしです。大豆もやしは大豆の種子を発芽させたもので、先端に1cmくらいの豆がついていて豆もやしとも呼ばれます。ブラックマッペもやしはブラックマッペ(黒緑豆、毛蔓小豆(けつるあずき))の種子を発芽させたもので、西日本で主に食べられる細いタイプです。豆の皮が黒いので黒豆もやしとも呼ばれ、軸の先端に黒い皮が残っていることもあります。
今日は「
新玉ねぎのステーキ、焦がし焼き」でもお話しした、野菜料理をおいしくする効果的な方法「上手に焦がす」の隠し技もお教えしましょう。昆布をこんがり焼いて粉末にしたもので、もやしを和えます。昆布の旨みに香ばしさが加わり、大変おいしくなります。他の料理にも活用できるのでぜひ覚えておいてください。
「
もやしと豆苗の味噌汁」でも述べたように、もやしのシャキシャキ食感を損なわないためには短時間加熱がポイントですが、シャキシャキ食感を生かすもうひとつのコツは塩分への対応です。
もやしは加熱すると水分が出ますが、それは大した量ではありません。ところが塩分に触れると一気に水分が出てしまい、ベチャッとなってしまいます。食べる直前まで塩分に触れさせないということが重要です。これはひたし、和えもの、炒めものに共通するコツです。
低カロリーで栄養豊富なもやし。安価だからと雑に扱わず、ひげ根をとったり、加熱の仕方や塩分に注意したりと、“もやし”にどれだけ情熱を“燃やし”て料理するかですね。(笑)今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「もやしと豆苗のひたし」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・もやしは食べる直前にたっぷりの湯で7〜8秒茹でて、ざるに上げる。水に放さない。
・豆苗も食べる直前にたっぷりの湯で12〜15秒茹でて、ざるに上げる。水に放さない。
・焼き昆布には、繊維質が少なく柔らかい早煮昆布(長昆布、厚葉昆布)を用いて、弱火でこんがり焼く。
・「もやしと切り干し大根の生姜ごま和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・もやしの食感が失われないように、切り干し大根を先にごまと生姜で和え、食べる直前にもやしと豆苗を加えて和える。
・「もやしととうもろこしの辛子和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・もやしと豆苗、とうもろこしを辛子醤油で和えるのではなく、3つを和えたものに辛子醤油をかけてもやしの食感を残す。
「もやしと豆苗のひたし」
【材料(2〜3人分)】・もやし 60g
・豆苗 40g
・美味出汁 大さじ3
出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合
・昆布(早煮昆布) 適量
・クレイジーピー(えんどう豆の幼葉。好みで) 適量
【作り方】1.もやしはそのままでもよいが、口あたりをよくしたい場合はひげ根を取り除く。豆苗は先の双葉の部分を切って3cm長さに切る。先の部分は「もやしと切り干し大根の生姜ごま和え」に使う。
2.焼き昆布の粉末を作る。昆布をグリラー(オーブントースターでもよい)に入れて、ごく弱火で両面をこんがりと焼く。オーブンを使う場合は150℃で5分ほど焼く。昆布の焼き上がりは「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真参照。冷めたら手で割ってミルかミキサーにかけて粉末にする。すり鉢でもよい。日持ちするので、まとめて作って瓶などに入れて常温保存するとよい。
3.鍋にたっぷりの湯を沸かす。もやしをざるに入れて、そのまま湯につけ7〜8秒茹で、別のざるに上げる。豆苗も、もやしと同じように12〜15秒茹で、別のざるに上げる。
4.もやしをボウルに入れて焼き昆布の粉末を適量まぶす。もやしと豆苗を器に盛って美味出汁をかけ、クレイジーピーを添えて供する。
「もやしと切り干し大根の生姜ごま和え」
【材料(2〜3人分)】・もやし 40g
・豆苗の先の部分 20g
・切り干し大根(水でもどして絞る) 40g
・いりごま(市販品をいり直す) 大さじ1
・生姜(みじん切りにする) 25g
・濃口醤油 大さじ1/2
・日本酒 大さじ1/2
・花椒菜(好みで) 適量
【作り方】1.たっぷり水をはったボウルに切り干し大根を入れ、ほぐして付着したごみなどを落とす。下に沈んだごみが混ざらないように、両手で少しずつすくってざるに上げる。ボウルに再度、たっぷりの水を入れて切り干し大根を入れ、3〜5分ほどつけてざるに上げる。何回かに分けて両手でぎゅっとにぎって水気をしっかり絞る。横に長く置いて食べやすい長さに切る。
2.もやしはそのままでもよいが、口あたりをよくしたい場合はひげ根を取り除く。
3.いりごまを香ばしくいり直してすり鉢でする。「
セロリのごま和え」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真のように、ところどころにごまの粒がわずかに残るくらいにすれたら、調味料と生姜を加えてゴムべらでよく混ぜる。
4.3に切り干し大根を入れ、ほぐしながら全体が均一になるようによく混ぜる。
5.鍋にたっぷりの湯を沸かす。もやしをざるに入れて、そのまま湯につけ7〜8秒茹で、別のざるに上げる。豆苗の先の部分ももやしと同じように7〜8秒茹で、別のざるに上げる。
6.4にもやしと豆苗の先の部分を加えて混ぜ、器に盛る。花椒菜を添えて供する。
「もやしととうもろこしの辛子和え」
【材料(2〜3人分)】・もやし 30g
・豆苗 30g
・焼きとうもろこし(実) 30g
・辛子醤油 大さじ1
濃口醤油大さじ1、練り辛子5g
・レッドマスタード(好みで) 適量
【作り方】1.もやしはそのままでもよいが、口あたりをよくしたい場合はひげ根を取り除く。豆苗は先の部分を切って3cm長さに切る。先の部分も一緒に使ってもよい。
2.もやしと豆苗を「もやしと豆苗のひたし」のプロセス3と同じように茹でて、ざるに上げる。
3.ボウルにもやしと豆苗、焼きとうもろこしの実を入れて混ぜる。器に盛って辛子醤油をかけレッドマスタードを添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。