よもぎアイスクリーム、香りのマカロン4種
こんな話を聞いたことはないでしょうか? 市販品のかき氷蜜は、味はまったく同じで、違うのは色と香りだけ。紙コップに注がれて販売される自動販売機のジュースについても同様の話を聞きます。
その真偽はさておき、皆さまも風邪をひいて鼻がつまっているときに、何を食べても味を感じなかったという経験があると思います。風邪をひいていなくても、目を閉じ、鼻をつまんで、ものを食べると何を食べているのかわからなくなります。
実は、香りは味の決め手の非常に重要な要因なのです。鼻がつまっていても、舌は味を感知しています。ただ嗅覚が働かないので味を認識できません。私たちは何か食べものを口に入れた瞬間、その味わいを味、香り、食感などの総合感覚としてほぼ同時に感じます。味、香り、食感を個々に区別することは難しく、それらの情報が複雑に混ざり合った感覚が味覚であり、この連載でも毎回のように使っている風味です。
なかでも嗅覚とは密接につながっており、神経生理学者の中には「味覚とは80%以上が嗅覚で、残りが味だ」とまで言う人もいます。もちろん、実際は視覚や聴覚、温度や食感も味覚に関わっています。ただ、それほどまでに、味覚に関する情報の大半が鼻から脳に入っている、ということが言いたいのでしょう。
味と香りが互いに影響しあい、味わいを強めることについては、これまでも「
とうもろこしと白うりの白和え、焼きとうもろこしアイス」、「
若水菜の辛子ひたし、味噌汁」でお話ししてきました。
よもぎの新芽部分。今日は、今の時季、香りが大変よいよもぎを使ったアイスクリームと、4種の香りのマカロンを紹介します。香りにちなんで源氏香の意匠の石皿に盛りました。「
小かぶの浅漬け、水なすの浅漬け・昆布押し」で、香木を焚いてその香りを愛でる芸道、香道についてお話ししました。
源氏香は何種類かの香りを組み合わせた香りを当てる遊びのひとつです。5種の香木をそれぞれ5包ずつ計25包作ります。任意に5包を取り出して焚き、香りの同異をかぎ分けて5本の縦線に横線を組み合わせた図で示します。描かれた線の図を『源氏物語』54帖のうち、最初の桐壺と最後の夢の浮橋以外の52の帖名で表された図に照らして、帖名で答えます。
源氏香は和装や伝統工芸の意匠としてもよく用いられていますね。私は伝統的でありながらもどこかモダンな感じがする源氏香の図が大好きです。今日マカロンを盛りつけた器以外にも、香りを大切にする料理に合わせるために写真上の銀彩の皿、蓋に源氏香の透かしを入れ、そこから香りが漂う趣向の煮もの椀、重箱などをオリジナルで作りました。見て、触れて、味わって季節の香りを楽しんでいただければと思います。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「よもぎアイスクリーム」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み 塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・アイスクリームには油脂が多く含まれるため、よもぎの風味が消えやすい。多めに加えて香りを楽しむ。
・生のよもぎを摘んで使う場合は、新芽の部分のみを摘む。新芽は柔らかくて香りがよいので、まとめて摘み、茹でて水気を絞り冷凍保存する。ペーストにしてよもぎ餅やよもぎ団子などに使ってもおいしい。
・「香りのマカロン4種」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘味 ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・各味噌は必要量のみを作る。作って時間がたつと、香りが弱くなり変色する。少量で合わせにくい場合はある程度の量を作り、冷蔵庫で保存。2〜3日であれば、変色も少ない。
・食べる直前にマカロンラスクに味噌を塗る。
「よもぎアイスクリーム」
【材料(2〜3人分)】・バニラアイスクリーム(市販品) 100g
・生のよもぎ(茹でて絞る。冷凍の市販品でもよい。) 20〜25g
・牛乳 少々
・砂糖 少々
・ニューサマーオレンジ 適量
【作り方】1.市販のアイスクリームは少し柔らかくしておく。
2.よもぎペーストを作る。よもぎは新芽部分の葉だけを摘み、大量の水でよく洗ってざるに上げる。湯を沸かしてよもぎを入れ茹でる。火が通ったら水に放してざるに上げ、手で水気をよく絞る。
3.2をミキサーかフードプロセッサーに入れて、少しの牛乳と砂糖を加えてペーストにする。
4.ボウルに1と3を入れて混ぜ、保存容器に移して冷凍庫に入れる。
5.ニューサマーオレンジは皮と薄皮をむいて小さくほぐす。
6.アイスクリームが程よい堅さになったら、スプーン2本を使って成形して器に盛り、ニューサマーオレンジをのせて供する。
「香りのマカロン4種」
(右)よもぎ。(上)青柚子。(下)ほうじ茶。(左)実山椒。【材料(12個分)】・マカロンラスク(市販品。プレーンなもの) 12対
・よもぎ味噌 適量
作りやすい分量:西京味噌50g、よもぎペースト10g
よもぎペーストは「よもぎアイスクリーム」参照
・よもぎの葉 3枚
・揚げ油 適量
・青柚子味噌 適量
作りやすい分量:西京味噌50g、青柚子1個
・青柚子 適量
・ほうじ茶味噌 適量
作りやすい分量:西京味噌50g、ほうじ茶の茶葉2g
・実山椒味噌 適量
作りやすい分量:西京味噌50g、実山椒(下処理して茹でたもの)10g
実山椒の下処理は「
春若いもと春菜・ラズベリーの酢のもの、木の芽みたらし、実山椒味噌かけ」参照
【作り方】1.よもぎ味噌を作る。ボウルに西京味噌とよもぎペーストを入れて混ぜる
2.よもぎの葉を素揚げする。フライパンに揚げ油を入れて160℃弱くらいに熱する。よもぎの葉を入れて、少し透明感が出てきたら裏返して揚げる。泡がほとんど出なくなる直前で油から引き上げてクッキングペーパーに広げ、余分な油を除く。
3.青柚子味噌を作る。ボウルに西京味噌を入れる。青柚子の皮の部分のみをおろし金で削って、西京味噌に加えてよく混ぜる。
4.ほうじ茶味噌を作る。ほうじ茶の茶葉をミルにかけて粉末にする。ボウルに西京味噌を入れ、ほうじ茶の粉末を加えて混ぜる。
5.実山椒味噌を作る。ボウルに西京味噌を入れ、みじん切りにした実山椒を加えて混ぜる。
6.マカロンラスクの片方に1、3、4、5の味噌を好みの量塗り、もう一方のマカロンを合わせる。1を塗ったよもぎ味噌マカロンには2を添え、3を塗った青柚子味噌マカロンには青柚子の皮の部分のみをおろし金で削ってふりかけて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。