夏を楽しむ アウトドアで大人遊び 第7回(全12回) 大人世代は別荘で、あるいは自宅のガーデンで、そして旅先で、自然に親しみながら、ゆったりとエレガントに、外遊びを楽しむのが今の気分。この夏、大人の女性の心が躍るアウトドアの魅力、より楽しむためのアイディアをお届けします。
前回の記事はこちら>> 火の達人に教わる、わが家で焚き火カフェを
日頃からご自宅や別荘に友人を招いて、興趣に富んだおもてなしをしている三枝政代さん、朝子さん母娘。今日は焚き火の伝道師、寒川 一さんご夫妻とともに美しい焚き火を囲んで夏の一日を楽しみました。
三枝政代さん、朝子さん(さえぐさ・まさよ、ともこ)政代さん(右端)は1869年創業の「ギンザのサヱグサ」取締役であり、料理家。隣の長女・朝子さんは、サヱグサの子どものための体験プログラム「SAYEGUSA &EXPERIENCE」において寒川さんと“生きる力”を伝える。案内人・アウトドアライフアドバイザー 寒川 一さん(さんがわ・はじめ)1963年香川県生まれ。災害時に役立つアウトドアの知識を伝えるアウトドアライフアドバイザーで焚き火の伝道師。三浦半島を拠点に「焚火カフェ」を開催している。著書に『焚き火の作法』。写真左端は妻のせつこさん。寒川 一さんが焚き火で焼いたスウェーデン流パンケーキに、三枝政代さんお手製のルバーブと桃のジャムを添えて。豆を直接湯に浸して煮出したコーヒーは、フィンランド伝統のカップ「ククサ」がよく似合う。純粋に火を楽しむ時代。焚き火は心のよりどころ
「火はかつて重要な熱源の一つでしたが、今は純粋に楽しむ時代になったと感じています。昔はどの家でも三度の食事とお風呂に火が不可欠でしたが、安全便利な電化製品の登場で、その役割が失われていきました。
機能面で求められなくなった火に残ったのが、情緒的な部分です。僕らは20年ほど前から海辺で火を焚き、コーヒーを振舞う『焚火カフェ』をしていますが、人々が火に求めているのは癒やし。不安だらけの世の中で心のよりどころとなるのは、太古の時代から変わらない火だということなのでしょう」
穏やかに語る寒川 一さんは焚き火の伝道師。焚き火を未来に残すため、その魅力と作法を広く伝えています。
火の達人、寒川さんの焚き火道具と自作のチェア、そして美しい火。焚き火台下の石板は環境保護のためで通常は防燃シートを敷く。寒川さんのいう「焚き火という文化を絶やさないための作法」の一つだ。この日、妻のせつこさんとともに訪れたのは、三枝朝子さんと母・政代さんの熱海の別荘。いわば「焚火カフェ」の出張版です。
「ぜひ五感をフルに使って楽しんでください。炎の揺らめきと温もり、薪が燃える匂い、はぜる音。火でおいしいものを作れば味覚も刺激されます。焚き火は薪のくべ方で炎が変化するのも面白いところ。想像力や造形センスも試される、クリエイティブな作業でもあるんですよ」。
その言葉を聞き、一斉に炎に見入る一同。雨上がりの庭に和やかな笑い声が響きました。
私流楽しみ方、焚き火で野点を
右・長年お茶を点ててきた政代さんも、焚き火で沸かした湯を用いるのはこの日が初めて。「お茶のお道具とも合いますね」と朝子さんが気に入った寒川さんの鉄瓶は残念ながら非売品。上・政代さん愛用の「時代唐物籠」と中に収められていた「時代瓢簞蒔絵」の茶器などお茶道具一揃い。「焚き火で野点」という新しい試みを提案したのは朝子さん。
「以前、初めて寒川さんが火を熾される様子を拝見したとき、お茶のお点前のように見えたんです。季節や天候、ゲストに合わせたご準備、シンプルで理にかなった道具などからだと思います。それをお伝えしたら、『自然に添うところ、その場にあるものを生かすところなどはお茶に通じるかもしれません』とおっしゃって。母も『野に咲く花を使うよう説いた千 利休の教えに通じますね』とうなずいていました」。
寒川さんが沸かした湯で野点を行った政代さんは、「父がよく、『日が傾き始めた夏の夕べにお茶を点てるとすごく素敵だよ』といっていたのを思い出しました」と微笑みながら話してくださいました。
下のフォトギャラリーで詳しくみる 撮影/阿部 浩 取材・文/清水千佳子
『家庭画報』2022年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。