こんにゃくの岩石揚げ、千枚ズッキーニ
こんにゃくの岩石揚げを紹介します。ゴツゴツしているので岩石と呼びますが、最近、よく耳にする大豆ミートを使ったから揚げにも見えるかもしれません。私の中では一緒にしてほしくありません(笑)。
大豆ミート自体はこれからの食や野菜料理を考える上でも、素晴らしい食材だと思います。私が嫌なのは、大豆ミートならではのおいしい料理ではなく、すぐにもどき料理系に走ってしまう安易な発想です。大豆ミートという名前からしてそうなのですが。豆腐から多くの料理、そして油揚げやがんもどきなどの加工品ができたように、大豆ミート独自の活用ができると思います。
「
蓮餅のうなぎもどき、松前揚げ」でも述べましたが、中国の菜食とインドの菜食を比べると面白いことがわかります。インドの菜食には肉や魚介を連想させるもどき料理という発想がまったく見られません。極端に言えば、野菜や穀物などにスパイスで変化をつけてそのまま食すという発想です。それに対して中国の菜食はもどき料理に見られるように、根底には肉食に対する何らかの思い、未練が働いていると感じられます。
今日はインドの菜食にならったわけではありませんが、炊いたこんにゃくを甘くエキゾチックな香りが特徴的な五香粉(ごこうふん)で香りづけし、砕いたピーナッツをつけて揚げます。
これまでこんにゃくを炊いて(「
こんにゃくのピリ辛煮」、「
煮しめ」)常備菜にすることをくり返しおすすめしてきました。そのまま食べるだけでなく、刻んで和えものや酢のものの具材にすることもできますし、きんぴら(「
揚げさやいんげんと山くらげのきんぴら」やステーキ(「
ねぎとこんにゃくのすき焼き」)にも使えます。今日のこんにゃく料理は冷たいビールにぴったりです。
日本料理の特長ともいえますが、逆に短所としてもよく指摘されることに、控えめな味つけがあります。厳しい言い方をすれば、外国の料理に比べてメリハリがない、パンチがない、ぼんやりして単調であるということでしょうか。
一方、外国の料理は輪郭が明確で、塩味や酸味を効かせたり、香辛料やハーブを使って刺激あるものに仕上げます。時々食べたくなる、火を吹きそうになるくらい辛い麻婆豆腐など、よい例かもしれません。強烈に刺激的な味は人間に興奮をもたらし、脳に刺激を与え、大きなインパクトとして記憶に残るのです。
肉や魚介を使った料理に比べて旨みが弱い野菜料理にも、うまく香辛料やハーブを取り入れると、人をとりこにする料理にすることができます。
もう一品は薄くスライスしたズッキーニを酸味のあるひたしにします。あっさりしているのでパンチのある岩石揚げにもよく合います。千枚ズッキーニは前に紹介した塩麹たれで和えてもおいしくいただけます。
炊いて作り置きしたこんにゃくがあればあっという間にできる岩石揚げと、仕込みいらずの千枚ズッキーニで、今晩はお酒が進みます。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「こんにゃくの岩石揚げ」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・炊いたこんにゃくの汁気をクッキングペーパーでよく除く。こんにゃくに汁気が残っていると衣が外れやすい。
・ピーナッツは小さめに刻む。粗いとつきにくく、外れてしまう。
・170℃で揚げる。高温で揚げるとピーナッツが焦げてしまう。
・ピーナッツがなければパン粉をつけて揚げてもよい。
・「千枚ズッキーニ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・スライスしたズッキーニの表面に葛粉をごく薄くつけて塩茹でする。ズッキーニの風味が抜けず、つるっとした舌触りになり下味もつく。
・ズッキーニはさっと茹でて水に放す。茹で過ぎると食感がなくなる。
「こんにゃくの岩石揚げ」
【材料(4人分)】・こんにゃくのピリ辛煮 黒こんにゃく2枚分
「
こんにゃくのピリ辛煮」
・フライの衣
強力粉(ふるったもの)70g、水100cc、おろし生姜3g、牛乳20cc、卵(卵黄と卵白に分ける)1個、塩少々
・五香粉 適量
・薄力粉 適量
・ピーナッツ(小さめに刻む) 適量
・揚げ油 適量
【作り方】1.黒こんにゃくをまな板の上に置いて、手のひらで強くたたいてこんにゃくのコシを取り、柔らかくする。スプーンで一口大にちぎる。「
こんにゃくのピリ辛煮」を参照して、臭みを抜いて炊き、1時間以上おいて味を含ませる。
2.フライの衣を作る。卵白と塩以外の材料をボウルに入れてよく混ぜる。別のボウルで卵白に塩少々を加えて八分立てにしたら、先のボウルに入れてさっくり合わせる。
3.こんにゃくを煮汁から上げて、クッキングペーパーに包んで水分をよく除く。ボウルに入れて五香粉を多めにふりかけてまぶし、10分ほどおいてなじませる。
4.こんにゃくに薄力粉を薄くつける。フライの衣をつけ、さらにピーナッツをつける。
5.フライパンに揚げ油を入れ170℃に熱し、4を入れる。30秒ほど揚げてこんがりきつね色になったら油から上げて器に盛る。
「千枚ズッキーニ」
【材料(4人分)】・ズッキーニ(緑、黄) 各1/2本
・すだち風味かけ出汁
出汁大さじ5、塩1.5g、薄口醤油大さじ1、みりん大さじ1/2、すだちのしぼり汁1個分
・葛粉(粉末。片栗粉でもよい) 適量
・こしょう 少々
【作り方】1.ズッキーニはそれぞれスライサーで1.5mm厚さにスライスする。ズッキーニの表面に葛粉の粉末を刷毛でごく薄くつける。
2.すだち風味かけ出汁を作る。ボウルに出汁と調味料すべてを加えて混ぜる。
3.たっぷりの湯を沸かし、塩(分量外)を湯の0.7%加える。ズッキーニを2〜3枚ずつバラバラに入れて4〜5秒茹でたら冷水に放す。これを繰り返してすべてのズッキーニを茹でる。冷めたら互いにくっつかないように平らな網などに広げる。器に盛ってすだち風味かけ出汁をかけ、こしょうをふって供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。