プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 豆苗(とうみょう)とそら豆の生姜炒め、もやしと苦瓜・萱草(かんぞう)の山椒炒め
豆苗はえんどう豆の若い芽と茎を食べる緑黄色野菜で、これまでも「
初夏のいり豆腐」、「
もやしと豆苗の味噌汁」、「
もやしと豆苗のひたし、生姜ごま和え、辛子和え」で使ってきました。
えんどう豆の若い芽を摘んで「豆苗」として食べ始めたのは中国で、当時は一部の高貴な人や特別な行事でしか口にできない希少野菜だったようです。日本には1970年代の日中国交正常化以降に入ってきましたが、しばらくは高級中国料理店のみで扱われ、家庭の食卓とは縁遠い食材でした。
日本に入ってきた当初、中国の豆苗はえんどう豆を畑に植え、春に出た新芽を手摘みしたものでした。一方、日本では1990年代半ばからきぬさやや砂糖ざやなどを水耕栽培し始め、それらの発芽したての根付きの若芽(スプラウト)を豆苗と呼ぶようになりました。値段も手頃で栄養価も高く、家庭の食卓に浸透しました。
細長い茎の先に緑色の小さな双葉があり、エンドウ属特有の香りがしてしゃきしゃきとした食感です。切って使った後に根元の部分を水に浸しておけば再生栽培することも可能です。
もう一つの料理には萱草(かんぞう)を使いました。野萱草・藪萱草(やぶかんぞう)・浜萱草など複数の種類があり、どれもつぼみや花が食用となり、6月から旬を迎えます。つぼみは加熱すると少しぬるっとし、しゃきしゃきとした食感でひたしや和えもの、炒めものにむいています。花は酢のものにします。藪萱草の母種とされる中国原産の本萱草のつぼみである金針菜(きんしんさい)は、中国料理でよく使われるのでご存じかもしれませんね。
萱草(かんぞう)の花とつぼみ。豆苗は日本で食材として独自の進化を遂げ、中国の金針菜に近い萱草は日本でも昔から食べられていました。昔も今も日本と大陸は食の分野でも深い関係にあることを実感します。今回は生姜と実山椒を効かせた刺激のある炒めものを2品紹介します。炒める手順にコツがあります。料理に文化の違いを感じるか、共通性を感じるか? 今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「豆苗とそら豆の生姜炒め」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・豆苗はしゃきしゃき食感や旨み、栄養素を損なわないようにさっと短時間加熱する。先にそら豆を焦げ目がつくくらいに焼き、生姜と甘長唐辛子を加えて炒めた後に豆苗を加える。
・「もやしと苦瓜・萱草の山椒炒め」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・もやしはなるべく塩分に触れさせないことで食感を残す。先に湯通ししておき、最後に混ぜる。塩分を加えて時間がたつと水分が出てベチャッとなる。加熱で出る水分よりも、塩分に触れて出る水分のほうがはるかに多い。
・苦瓜の苦みを減らしたい場合は、スプーンで種と一緒にわたをしっかりこそげ落とす。
・苦瓜は強火で短時間加熱する。
「豆苗とそら豆の生姜炒め」(左)
【材料(2人分)】・豆苗 110g
・そら豆(さやから出して皮をむく) 8〜10粒
「
そら豆3種」も参照。
・甘長唐辛子 3本
・生姜(せん切り) 20g
・むきくるみ(粗めに刻む) 適量
・くこの実 適量
・サラダ油 大さじ1
・塩 小さじ1/4
・こしょう 少々
【作り方】1.豆苗は根元から切って、さらに3.5cm長さに切る。甘長唐辛子は枝の部分を外して5mm幅に切る。
2.フライパンを火にかけて半量のサラダ油をひく。そら豆を入れて中火で両面に焼き目がつくくらいに焼く。残りのサラダ油を加えたら、生姜と甘長唐辛子を入れて強火で炒め、続けてむきくるみとくこの実、最後に豆苗を入れる。40秒ほど強火で一気に炒めて手早く塩こしょうし、火からおろして器に盛る。
「もやしと苦瓜・萱草の山椒炒め」(右)
【材料(2人分)】・もやし 100g
・苦瓜 1/4本(40g)
・実山椒(下処理して茹でたもの) 小さじ1
実山椒の下処理は「
春若いもと春菜・ラズベリーの酢のもの、木の芽みたらし、実山椒味噌かけ」参照
・萱草のつぼみ(金針菜でもよい) 6本(20g)
・サラダ油 大さじ1
・塩 小さじ1/4
・利休麩 1個(40〜50g)
「
利休麩」参照
・萱草の花(半分くらい開いたもの) 2本
・甘酢 適量
作りやすい分量:昆布出汁(水1L 昆布10g)450cc、酢300cc、砂糖100g
【作り方】1.もやしは、口あたりをよくしたい場合はひげ根を取り除く。そのままでもよい。
2.苦瓜は縦半分に切り、スプーンで種を除く。5mm厚さの半月切りにする。
3.実山椒は粗めに刻む。利休麩は1cm角程度に切り500Wの電子レンジで30秒ほど温めておく。
4.萱草の花は花粉を除き、さっと茹でて水に放す。クッキングペーパーで水気を除き、甘酢に20分以上漬ける。
5.たっぷりの湯を沸かしてもやしを入れ、10〜15秒茹でてざるに上げる。
6.フライパンを強火にかけてサラダ油をひく。苦瓜と実山椒を入れて強火で45秒ほど炒め、萱草のつぼみを加えてさらに炒める。合計で1分以上炒めない。塩で手早く味をつけ、利休麩と茹でたての5を加えて混ぜ、5秒炒めたら火からおろす。器に盛り、甘酢から上げて酢をきった4の萱草の花を添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗