パッションフルーツの葛切り
パッションフルーツがスーパーマーケットなどの果物コーナーに並び始めました。芳しい香りが漂い、ついつい手に取って香りをかいでしまいます。果実の中に小さい種がたくさんあり、そのまわりに濃厚な甘さと爽やかな酸味をもつ黄色いゼリー状の果肉があります。
そのまま種ごと食べたり、アイスクリームやヨーグルトにかけたり、ゼリーにしてもおいしいですね。種が気になる場合は、裏ごし器や金ざるで取り除いてピュレに。この連載では「
フルーツ酢味噌 刺し身こんにゃくにのせて」で、酸味と芳香を生かしてパッションフルーツ味噌を作りました。
パッションフルーツ。常温で保存し、表面にシワが寄ってきたら食べ頃です。そのまま食べる場合は、冷蔵庫で2〜3時間冷やします。今日はパッションフルーツを使った葛切りを紹介します。
葛切り(「
葛切り」)は昨夏にお教えしましたが、黒蜜だけでなく、昆布レモン蜜やほうじ茶蜜を合わせるなど、蜜を工夫することでレパートリーが広がります。
冷たいものだけでなく、あつあつもおいしく、「
柚子葛切り」以外にも、温めた「
金柑ビネガー煮」の蜜を熱い葛切りにかけ、金柑ビネガー煮を添えてもよいでしょう。
パッションフルーツはトケイソウ科の多年草で、17世紀にブラジル南部でスペイン人宣教師によって発見されました。その後、世界中の熱帯や亜熱帯地域に伝わり、日本では沖縄本島、石垣島、奄美大島、小笠原諸島、三宅島、最近では八王子市などでも栽培されています。国内における旬は5月〜8月です。
英語のpassion(パッション)には「情熱」と「キリストの受難」の2つの意味がありますが、パッションフルーツのパッションは「キリストの受難」のほうです。宣教師が見つけたパッションフルーツの花を、アッシジのフランチェスコ(フランシスコ会の創設者)が夢で見た「キリストが磔(はりつけ)になった十字架の上に咲く花」だと考えたことによります。
和名の時計草は水平に開いた花びらが文字盤、3つに分かれためしべが時計の針(長針・短針・秒針)に見えることに由来します。花言葉は「聖なる愛」「“信じる”心」など。この季節にだけ味わえる葛切り、ぜひお試しください。“信じる”ものは救われる、決して後悔させません(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「パッションフルーツの葛切り」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・葛切りは生地を流したバットの底面を湯に当てて、バットを前後に揺らし、生地が半透明になったらバットごと湯の中に落とす。半透明にならないうちに湯に落とすと、生地が湯の中に流れてしまうので注意。
・透明でコシがあるうちに食べる。時間とともに白濁しコシがなくなる。
・パッションフルーツのゼリー状の果肉に、グラニュー糖をじかに加えて溶かす。加熱すると香りが変化し、白蜜を加えると風味が弱まってしまう。
・食べる温度によって加える砂糖の量を加減する。酸味は温度による感じ方の変化があまりない。甘みは体温に近い温度で一番強く感じ、体温から離れるにしたがって弱く感じる。
「パッションフルーツの葛切り」
【材料(4人分)】・本葛粉 1/2カップ
・水 1カップ
・パッションフルーツ 4個
・グラニュー糖 50g(好みで加減)
・白玉粉 70g
・マンゴーピュレ(市販品) 80g
【作り方】1.パッションフルーツ蜜を作る。パッションフルーツを横半分に切り、果肉を種ごとスプーンでボウルにかき出す。グラニュー糖を加えて溶けるまで泡立て器でよく混ぜる。
2.マンゴー白玉を作る。ボウルに白玉粉を入れて分量の2/3のマンゴーピュレを加える。ダマをつぶしつつ手で混ぜ合わせて、水分を均一になじませる。残りのマンゴーピュレを加えてこね、ボウルにも手にもつかないくらいに生地がまとまったら、直径1.2㎝の棒状にして、1.2㎝幅に切って丸める。鍋にたっぷりの湯を沸かし、マンゴー白玉の生地を入れる。1分ほどたったら、鍋底にくっついたものを離すため箸で一度だけ優しく混ぜる。すべての白玉だんごが浮いてきたら、さらに2分ほど茹でて冷水に放す。冷めたらざるに上げて水気をきる。
3.「
葛切り」を作る。ボウルに分量の水を入れ、本葛粉を加えて1~2分おく。泡立て器でよくかき混ぜて本葛粉を完全に溶かし、茶こしなどでこす。完全に溶けていればこす工程は省いてもよい。
4.大きめの鍋と、それに入る小さめのステンレス製バットを用意する。大きめの鍋には容量の半分ほどの湯を沸かしておく。
5.3を葛粉が沈殿しないように再度かき混ぜ、バットに3~4mmの厚さで流す。
6.バットをやっとこやペンチなどではさみ、底面を鍋の沸いた湯に当てて、バットの中で生地を前後にくり返し揺らして加熱する。生地が半透明になったらバットごと湯の中に落とす。
7.湯に沈んだバットの中の生地が透明になり、茹で上がったら、湯から引き上げてバットごと用意しておいた氷水に入れる。すぐに冷えるのでバットを氷水から取り出し、フライ返しなどで生地を外してまな板の上にのせ、好みで7~8mm幅に切る。
8.7を器に盛り、パッションフルーツ蜜をかけてマンゴー白玉を散らす。葛切りが透き通ってコシがあるうちに食べる。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。