漢方の知恵と養生ですこやかに 第7回(02) 梅雨が明けると、カラッと晴れた青空に気分は高揚しますが、体は暑さに慣れず、おなかを壊したり食欲が落ちたりして、調子を崩しがちです。今のうちに水分の上手な摂り方を身につけ、今年の夏を乗り切りましょう。
前回の記事はこちら>> 〔解説してくださるかた〕横浜薬科大学客員教授・薬学博士 漢方平和堂薬局店主 根本幸夫先生
●前回の記事
冷たい飲み物の誘惑に注意。胃腸を壊しやすく、食欲不振も>>水分補給は“常温のお茶”で。下痢にはお灸、食欲低下には梅肉を
養生茶にもなる漢方薬。おなかに優しいお灸の温かさ
胃腸に優しい水分摂取法は温かいお茶をゆっくり飲むこと。“水や麦茶は常温で。冷たい飲み物は少しずつ。氷は入れない”といった基本的な心がけだけでもおなかを壊すリスクは減るでしょう。
下痢や腹痛は漢方薬の得意分野です。たとえば胃腸虚弱や消化不良に効く六君子湯(りっくんしとう)はさわやかな風味で、日常的にいただく夏の養生茶としてもおすすめです。
昔、中国の貴族は客人を接待する際のお茶代わりに六君子湯を振る舞っていました。また、重症な水様状の下痢には五苓散(ごれいさん)を処方します。
もう一つ、下痢や腹痛に効く中国医学といえばお灸。特に「足三里」というツボ(次ページ参照)は胃痛、腹痛、嘔吐、下痢から食欲不振まで消化器症状全般に効く胃腸の特効穴(特定の症状に効くツボ)です。
お灸は、鍼のようにずんずんと響く刺激とは異なり、温熱がじわーっと染みわたっていく気持ちよさがあり、冷えによる内臓の不調には特に向いているのです。
夏の食養生の定番は「梅」。抗菌作用も食欲増進効果も
薬が簡単に手に入らなかった時代、人々は食養生の知恵によって健康を維持し、病気を防いでいました。夏の胃腸を守る食べ物の代表が梅。
中国古代の書物『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』では植物の薬効を「上品(じょうほん)・中品(ちゅうほん)・下品(げほん)」の三段階に分けており、梅は中品(病気の治療や養生に用いる食べ物)に分類されています。
梅には抗菌作用があり、完熟直前の新鮮な青梅のしぼり汁を長時間煮詰めて濃縮した「梅肉エキス」は、昔から食あたりや食中毒用の常備薬として用いられていました。梅には胃腸の働きを活発にし消化を助ける働きもあり、食欲の落ちやすい夏の健康管理には欠かせない食べ物です。
また利尿作用のあるすいかの汁を煮詰めて濃縮した「すいか糖」はむくみの解消に用いられてきました。旬の果物を適量いただくのも、上手な水分補給の方法です。