文=千住博(画家)
コロナ禍で自宅に閉じこもって、窓の外ばかり見る日々が続いた。冬景色に閉塞感が重なる。ふと目を向けた庭に、新しくピンクの花が咲いていた。
世界は止まってはいなかった、と心が動く。考えれば当たり前のことだったが、私達にはもう春はしばらく来ないかもしれない、とまで思っていたから。
そして景色は花から様々な濃さの新緑に移り変わり、青い空には雲が広がり、夏が来た。万葉は多彩な赤や黄色に色づいて季節はめぐり、やがて真っ白い雪が降り、また春になり蕾は開く。
世界が移り変わる多様な命に満ちていることに、今更ながら感動した。地球は生きている。世界は色彩に満ちている。これが何万年も続き、人類は最悪と思えた時期をいくつも乗り越えて来たのだ。
色彩に満ちた命溢れる世界で、人だけが滅びるわけにはいかない、と思った。
『家庭画報』2022年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。