新ごぼうとさやいんげんのかき揚げ、新ごぼうと山くらげの一味唐辛子煮
あくが少なくて柔らかい、優しい風味の新ごぼうを今回はかき揚げにします。これまで10種類の野菜のかき揚げを紹介してきましたが、これが最後になります。家庭で作る天ぷらとして、最も適しているのがかき揚げだと私は思います。わざわざかき揚げ用の野菜を買い求めなくても、家にあるものでいろいろ工夫しておいしく食べられます。半端な量の野菜でも、他の野菜と合わせてかき揚げにすれば、立派な一品になってうれしいですね。
今日は天ぷらについてお話しします。天ぷらは日本料理のひとつではありますが、私たち料理人の世界には、昔から寿司・うなぎ・蕎麦と同様に天ぷら専門の職人が存在します。天ぷら職人が目の前で揚げてすぐに出してくれる天ぷらと、料理屋の奥の厨房で揚げて客席に運ばれる天ぷらとでは、残念ながら勝負は明らかです。天ぷらは揚げた後の経時変化が激しいからです。
日本料理のプロは、同じ揚げものでも天ぷらではなく、「
じゃがいもの蓑揚げ」や「
干しいもの黄身揚げ」、「
辛子れんこん」のような細工揚げを得意とします。
食に関する情報があふれ、食体験が豊富になるにつれ、天ぷらは料理屋で食べるよりも天ぷら専門店で食べたほうがおいしいと一般の方も認識されるようになりました。それは事実なので仕方ありませんが、日本料理の料理人も目の前で揚げる天ぷらには勝てないまでも、経時変化に耐え、少しでもサクッとした軽い食感を保つ方法を昔から探求してきました。その成果が食品会社に流れ、コツを必要としない「天ぷら粉」などという形で販売されるようになったのです
そのレシピも公開しましょう。水400cc、卵黄1個、薄力粉300g+コンスターチ100g、イスパタ1.5gです。イスパタ(イーストパウダーの略称)は日本独自の膨張剤で、ベーキングパウダーの一種です。ベーキングパウダーで代用しても、イスパタに近い効果が得られます。今日は新ごぼうとさやいんげんで、ほとんど衣を感じないほど軽いかき揚げを作りますが、一般的には先に紹介した衣レシピを使うと、家庭でも上手に天ぷらができます。
天ぷら衣に加える卵についても知っておいてください。全卵を用いる場合もあれば、卵黄だけを使う場合もあります。卵黄は風味と旨みを与え、卵白はカリッとした食感が期待できます。卵黄を何か他の料理に使って卵白だけが残っている場合は、卵白だけでもいいのです。カリッと揚げたいかき揚げにはぴったりです。
今日は連載最後のかき揚げということで、これまで以上にレベルを上げた“かき揚げ”のコツを余すところなく“書き上げ”ました(笑)。今夜のおかずにぜひお試しください。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「新ごぼうとさやいんげんのかき揚げ」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・わずかな衣で新ごぼうとさやいんげんがつながっている、軽いかき揚げを作る。
・通常の天ぷら衣(薄力粉1:卵水1の割合)の卵水(卵をといた水)を増やして濃度を薄くする。薄力粉1:卵水2まで薄くできるが、薄めるほど揚げるのが難しくなるので加減を見ながら。
・食材に薄力粉をまぶして、薄い天ぷら衣を定着させる。新ごぼうとさやいんげんの1つ1つに均一に薄力粉を薄くまぶす。
・穴杓子を使って、新ごぼうとさやいんげんに皮膜がつく程度に薄く衣をからめ、ひとすくいずつ油に入れる。余分な衣は穴杓子の穴から落ちる。
・フライパンの内側面に具材の入った穴杓子をあて、菜箸でたねがばらばらに広がらないように寄せながら油にそっと入れる。
・「新ごぼうと山くらげの一味唐辛子煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・新ごぼうは土をたわしで洗い落とす程度にし、包丁の背で皮をこそげ取ったりしない。ごぼうの香りや旨みは主に皮の部分に含まれる。
・新ごぼうはあくが少ないので、水にさらさずに調理する。変色が気になるなら、切ったらすぐに加熱する。
「新ごぼうとさやいんげんのかき揚げ」(上)
【材料(2〜3人分)】・新ごぼう 100g
・さやいんげん 8本(40g)
・新生姜 10g
・天ぷら衣
薄力粉50〜100g、卵水(冷水100cc、卵黄1個)
・揚げ油 適量
・塩 適量
【作り方】1.新ごぼうは3mm角×3.5cm長さに切る。櫛刃を付けたスライサーを使ってもよい。さやいんげんは3cmに切る。新生姜はせん切りにする。
2.天ぷら衣を作る。ボウルに入れた冷水に卵黄を加え、泡立て器でときほぐす。そこに薄力粉を卵水の1/2〜同量加えて粘りが出ないようにさっくりと混ぜる。ベジタリアンは卵を用いなくてもよい。
3.新ごぼうとさやいんげん、新生姜をボウルに入れ、少量の薄力粉(分量外)を均一にまぶす。
4.3に2の天ぷら衣を適量加え、穴杓子を使って新ごぼうとさやいんげんに薄い皮膜がつく程度に均一にからめる。
5.揚げ油をフライパンに入れ180℃に熱する。穴杓子でたねをすくい、余分な天ぷら衣を落として油に入れる。フライパンの内側面にあてながら、ばらばらにならないように菜箸で寄せるようするとよい。実際は170℃前後で揚げたいので、油の量にもよるが最初は180℃にしておき、たねを入れた後に170℃になるように火加減を調整する。
6.少量の天ぷら衣でやっとつながっているくずれやすい状態なので、最初はできるだけ動かさず、30秒ほどしたら、広がってきたたねを箸で寄せて形を整える。しばらくしたら裏返す。泡が小さくなり揚がったら、油をよくきって、塩をかけて供する。
「新ごぼうと山くらげの一味唐辛子煮」(下)
【材料(2〜3人分)】・新ごぼう 70g
・山くらげ(炊いたもの。水でもどして絞ったものでもよい) 40g
「
山くらげの辛子酢味噌和え」参照
・ごま油 小さじ1/2
・サラダ油 小さじ1/2
・日本酒 小さじ2
・みりん 小さじ1/2
・砂糖 小さじ1/8
・濃口醤油 小さじ1/2
・薄口醤油 小さじ1/2
・一味唐辛子 少々
・七味ごま(梅や青のりなど7つの味をつけたごま。市販品。いりごまでもよい) 適量
【作り方】1.新ごぼうは5〜6mm角×4cm長さに切る。山くらげは3cm長さに切る。
2.フライパンを火にかけてごま油とサラダ油をひき、新ごぼうを入れる。中火で炒め焦げ目がついたら、山くらげも加えて炒める。全体に油がなじんだら調味料を加えて一気にからめる。汁気がなくなったら一味唐辛子を好みの量ふりかけて火から下ろす。器に盛って好みで七味ごまをかけて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。