小国士朗(おぐに・しろう)プロデューサー。2003年NHK入局。『プロフェッショナル 仕事の流儀』、『クローズアップ現代』などのドキュメンタリー番組を中心に制作。その後番組のプロモーションを手がけ、スマホアプリ“プロフェッショナル 私の流儀”は150万ダウンロードを記録。NHK退局後「deleteC」、「丸の内15丁目PROJECT.」など多数のプロジェクトに携わる。カジュアルで、軽やか。社会貢献の楽しく新しい姿
片頰を上げてニヤリと笑うスマイルマークが印象的なこの本は、NHKで誰もが知るドキュメンタリーを制作した経験をもつ小国士朗さんの著書。
話はNHK時代の番組制作の裏側から始まり、面白く読み進めていくうちに、小国さんが実際に手がけた社会貢献活動へと自然につながっていく。そこにはまったく垣根がないかのようだ。
「社会貢献というと、一般的には真面目にやらなければならないイメージがありますよね。私もそう思っていましたが、それでは何より自分自身が続けられない。プロジェクトを進めていくうちに、肩の力を抜いて、笑いながらやってもいいんじゃない?と考えられるようになりました」
発端は『プロフェッショナル 仕事の流儀』での認知症ケアの第一人者、和田行男さんへの密着取材。
グループホームで共同生活を送る人々の昼食を取材した際、メニューはハンバーグと聞いていたものの、でき上がったのは、餃子。けれども誰も文句をいわず、おいしそうに食べていたという。
この経験から着想を得て「まちがえちゃったけど、まあ、いいか」をコンセプトに“注文をまちがえる料理店”というプロジェクトをスタート。
認知症状態にある人々が注文を取り、配膳するレストランは大成功を収め、世界150か国に配信された。現在は「一般社団法人 注文をまちがえる料理店」として不定期でイベントを開催している。
「認知症の状態にあった男性の奥さまが“彼には接客は難しいと思う”と参加に不安を感じ、当日も緊張しながら見守っていらしたのですが、現場で笑顔を見せながら生き生きと働く姿を見て、“本来の笑顔を久しぶりに見ました。毎日の介護で彼がどんな人なのかがわからなくなっていたようです”と号泣されたことがありました」
このプロジェクトのタイトルのみならず、“面白がりながら社会貢献する”というスタンスは、“不謹慎だ”という批判を呼びそうだが......。
「もちろんそのような批判が寄せられることもあります。けれども、ハンバーグが餃子になったあの風景のように、自分が実際に目にした“現実のなかにある理想の姿”を大切にすることで、噓がなく、誰かを傷つけることを回避できる企画になっていくのではないかと思っています。さらに、私はこれらのプロジェクトは仕事とは切り離し、“趣味”と位置づけています。趣味だから、無理なく、誰よりも熱中して続けられる。誰かのためでなく、まずは自分のために、わくわくしながらやっています。“不謹慎”と顔をしかめる前に、まずは軽やかに動いてみる。気がついたら誰にとっても生きやすい未来が生まれているかもしれません」
装幀/木本梨絵〈HARKEN〉『笑える革命』
小国士朗 著/光文社サブタイトルは、“笑えない「社会課題」の見え方が、ぐるりと変わるプロジェクト全解説”。Cancer(がん)の頭文字の「C」を企業名や商品名などから消し、その売り上げの一部ががん治療研究に寄付される“delete C”プロジェクトなど、誰もが楽しみながら続けられる社会貢献について学べる一冊。
「#今月の本」の記事をもっと見る>> 構成・文/安藤菜穂子
『家庭画報』2022年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。