死を意識している人に会いに行くことの大切さ
「死を意識して生きている人たちは多くのことを教えてくれます」── 吉藤さん
松岡 最後の質問です。オリィさんは死というものをどう捉えていますか?
吉藤 大変難しい質問ですが、一ついえるのは、余命宣告された人のように死を意識している人の言葉はすごく心に沁みるということです。「託された」という思いも持ちますし、それは必ず生きる力になる。そういう人に会うのは怖いかもしれませんが、ぜひ臆せずに会ってほしいと思います。
松岡 「託される」という感覚はわかる気がします。僕は野村克也さんや大橋巨泉さん、浅利慶太さんに、「これが最後のインタビューになるかもしれない」という時期にお目にかかったのですが、みなさん、言葉が本当に力強く、一言一言に重みがあった。そして、確かに託されている感じがしました。
「『託された』という思いは明日を生きるパワーの源になります」── 松岡さん
吉藤 自分では達成できないことも、誰かに託せると思ったら、ちょっと嬉しいですよね。やってきたことが無駄ではなかったと思えます。私自身、仮に自分がここでぶっ倒れてしまっても、誰かが「分身ロボットカフェ」を続けてくれるかもしれないと思うと希望が湧いてきます。「このバトン、持っていけ!」みたいなことがいえる人生の終わり方、いいなと思います。
松岡 今日オリィさんにお会いして本当によかったです。寝たきりのかたや死を間近にされたかたへの接し方など、たくさんの気づきがありました。僕も会いに行こうと思います。
修造の健康エール
「適材適所社会」。吉藤さんにどういう社会になってほしいか尋ねたときのお返事です。
「私は役割というものは有限だと思っていて、それを一部の人が独占するのではなく、AIに渡すのでもなく、みんなで分担したいんです。役割があれば人と関係を築きやすいし、自分の居場所がつくれます」。
その言葉の奥には、学校にも家にも居場所がないと思い詰めていた頃のオリィさんの切実な願いが感じられました。
「孤独にならない方法を次の世代に残したいというのは、自分が生きる理由として設定したようなもの。いい人だと期待されるのは怖い」などといいながら、本気で人類の孤独を解消しようとしているオリィさん。深い感銘を受けました。現在はご家族と仲がいいと伺えたのも嬉しかったです。
松岡 修造(まつおか・しゅうぞう)
1967年東京都生まれ。1986年にプロテニス選手に。1995年のウィンブルドンでベスト8入りを果たすなど世界で活躍。現在は日本テニス協会理事兼強化本部副本部長としてジュニア選手の育成・強化とテニス界の発展に尽力する一方、テレビ朝日『報道ステーション』、フジテレビ『くいしん坊!万才』などに出演中。大人気シリーズ『修造日めくり』の最新作『まいにち、つながろう 心と心はノーディスタンス』は全ページ本人による音読(QRコード)付き。ライフワークは応援。
撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/大和田一美〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子 撮影協力/分身ロボットカフェDAWN ver.β
『家庭画報』2022年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。