大きな受難を乗り越えて、ウメの名所の復活を願う
2009年はウメにとって受難の年でした。日本で初めてウメ輪紋ウイルス(プラムポックスウイルス)の感染が東京都青梅市で確認されたのです。
このウイルスに感染すると、葉に斑点や輪紋が生じ、果実の表面にも斑紋が現れて商品価値が落ちたり、また成熟前に落果してしまうこともあります。ウイルス感染の拡大をくい止めるには、現状、木を伐採してしまうしか方法がありません。
国からも緊急防除対策が示され、全国でも有数のウメの名所として知られる青梅市では、梅園のみならず、個人邸に植栽されているウメまで、市内全域で約3万6000本のウメが伐採されました。
その後、ウイルスの感染は他県でも確認され、神奈川県横浜市では約600本のウメを伐採。また関西でも大阪、兵庫、和歌山などで感染が確認され、多くのウメが伐採されました。
ウメの伐採のニュースを聞いたとき、それまで大切に管理してきた方々の悔しさ、むなしさを思うと、涙が出るほど悲しい気持ちになりました。 一度感染すると伐採だけでは終わりません。土壌の消毒などを重ね、ウイルスが完全に滅んだと判明するまで、新しい植樹はできないのです。
そして、ウイルス感染が確認されてから6年後、2015年にやっと青梅市の再植樹が始まりました。まだ一部の地域ではありますが、ウメの里の再生にやっと一歩が踏み出せました。何年かの後に、また見事なウメの名所として復活することを心から願ってやみません。
羽根木公園など、今ウメを観賞できる名所は、運よくウイルスに感染しなかった場所です。今年もウメの魅力的な花を眺めながら、この木々たちがウイルスに感染せず、元気に生き残ってくれたことに感謝したいと思います。
きりりとした空気の中、ウメを見上げながらの散策が心地よい。2月10日~3月4日まで「第41回 せたがや梅まつり」開催中。公園内の茶室「日月庵」では野点も楽しめる。写真提供/pixta 高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
ガーデニングエディター
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。現在は、種苗会社の会員向け月刊誌のほか、園芸雑誌などの編集に携わる。