「これは腿(もも)の筋肉を育てる動き。松岡さんは頭がいいから飲み込みも早いですね」と先生。「この体と生きていくしかないんだから、頭を使って育てましょ」── 菊池先生
松岡 僕は今日教えていただいて、きくち体操がほかと違う最大の理由は、先生の愛情だと感じました。体操に対して、僕と僕の足に対しての深い愛情。そこがほかの体操にはない、まねできないところではないでしょうか。
菊池 もちろん愛情は注いでいます。みんなかけがえのない一人、なんて尊いんだろう、よく生きてきたね、がんばれ!という思いで指導していますから。私は自分の体から意識を離すことなくこの体操を続けてきたことで、今も授業ができているし、自分が衰えていくのも感じ取れる。神様に感謝しているんです。
松岡 先生でも、衰えを感じることがおありですか?
菊池 ありますよ! 頭の衰えを感じています。
松岡 衰えていないじゃないですか! 僕のどんな質問にも、パパッと即答されています。
菊池 よく、「さっき話に出たのは何だっけ?」などとスタッフに聞いているんです(笑)。でも、教室で生徒さんたちの体を見ると、いってあげたいことが次々に浮かんでくるのは今も変わりません。
(松岡さん)パーカ、Tシャツ、パンツ、ヨガマット/ミズノ (菊池先生)ヨガマット/ミズノ体を見れば生活が見える
松岡 生徒さんの体を見ると、何がわかるんですか?
菊池 生活ですね。体を見れば、いっぱい食べて、テレビの前でだらだら過ごしていたんだなとか、忙しかったんだなとか、わかります。
松岡 そこまでわかるんですか!
菊池 ええ。わかったうえで、毎回、授業の内容を決めています。それができなくなったら、やめようと思っているんですけどね。
松岡 手間がかかる大変なことですよね。でも生徒さんたちは幸せです。
菊池 それは生徒さんに聞かないとわからないですけどね。ただ、この体操をすることで、おそらくみんな初めて自分自身と対話をして、自分の体は自分がよくするしかないと気づいて、実際によくしていく。それは年齢に関係なく、嬉しいことなんだと思います。授業が終わると、みんなとってもいい顔で帰っていきますよ。
松岡 男性の生徒さんもですね?
菊池 はい。それとね、どのクラスの生徒さんも全然休まないのは、何かしら、自分の体がよくなっているという実感があるからだと思います。
松岡 素晴らしいです。
菊池 こういう役目をいただいて、本当にありがたい人生だと感じています。できるところまでお役に立ちたいと思っています。
松岡 僕もオンリーワンの体を大切にして、しっかりと自分の体と対話していこうと思います。そして、両親にもきくち体操をやってもらいます! 今日は僕にとって大きな出会いでした。ありがとうございました。
菊池 私も楽しかったです。
修造の健康エール
菊池先生と一緒に見えたスタッフの中に、先生のお嬢さんがいらっしゃいました。きくち体操のインストラクターをされているのだそうです。
後継者がいるのは嬉しいことですねと先生に水を向けると、「引っ張り込んでしまったのかもしれない」と少し申しわけなさそうなご様子。そして、「生徒さんの体を見て性格も見て、よくしてあげられるように導いていくのは大変だと思います」とおっしゃいました。
確かに、この道50年以上の先生と同じように指導するのは簡単なことではないでしょう。でも、僕はきくち体操にはずっと続いてほしい。だから、菊池先生はもちろん、「母のように、たくさんの人に喜んでいただけるよう、がんばります!」と力強くおっしゃったお嬢さんも応援しています。
松岡 修造(まつおか・しゅうぞう)
1967年東京都生まれ。1986年にプロテニス選手に。1995年のウィンブルドンでベスト8入りを果たすなど世界で活躍。現在は日本テニス協会理事兼強化本部副本部長としてジュニア選手の育成・強化とテニス界の発展に尽力する一方、テレビ朝日『報道ステーション』、フジテレビ『くいしん坊!万才』などに出演中。大人気シリーズ『修造日めくり』の最新作『まいにち、つながろう 心と心はノーディスタンス』は全ページ本人による音読(QRコード)付き。ライフワークは応援。
撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/小島けさき(菊池先生)、大和田一美〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子
『家庭画報』2022年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。