肌で感じる時代の変化と歌舞伎を通して課せられた使命
目を細めながら嬉しそうに語る獅童さんは、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で見事に演じている冷徹な梶原景時とは全くの別人。この作品のオファーを受けたときの心境について語ってくれた。
「僕は三谷(幸喜)さんをすごく尊敬しているので何らかの形で参加したいと思っていたらオファーをいただいたんです。梶原景時といえば歌舞伎だと『梶原平三誉石切』くらいしかイメージがなく、ほかの演目では義経のことを頼朝に虚言で告げ口をするという大物ではない悪役で描かれることが多い人物。それが三谷さんの世界観で描かれるとどうなるのかが楽しみでした。実際に今までの梶原景時とは全く違う印象で、自分にとってもあんなに渋い役は初めてです。振れ幅が大きいほど役者としては演じる甲斐がありますし、三谷さんに新しい一面を引き出していただいたことはありがたいですね」
主演の北条義時役の小栗 旬さんや源義経役の菅田将暉さんは映画での共演の経験がある仕事仲間。ドラマからは楽しい現場の雰囲気も伝わってくる。
「座頭の小栗君がとってもいい人柄なので、和やかでいい現場でした。菅田君は僕が2020年11月に『四の切』の忠信を勤めたときに、一人で歌舞伎座へ観に来てくれました。義経役が決まって興味があったみたいで、それが彼にとって初めての歌舞伎の観劇だったそうです。観劇後に“とても感動してまさか泣くとは思わなかった”と話してくれました。彼の感性が優れているからですが、歌舞伎を観て泣いたと聞いて励みになります」
僕にある“ロック”な面は生かしつつも古典の道からは決して外れません── 中村獅童
歌舞伎との出会いが獅童さんの舞台だった人は少なくない。それは獅童さん自身が自分に課している使命に真剣に取り組んでいるからだろう。
「歌舞伎には古典があって、新作があって、超歌舞伎のようなサブカルチャー的な作品もある。僕は『あらしのよるに』のような新作のときは子どもからお年寄りまで楽しめるものを目指していますし、何を演るにしても古典好きのかたにも納得していただけるような物づくりを志しています。時代は明らかに変わっている。古典を守りつつ、僕ができることをこれからも精一杯やっていきます」
中村獅童/なかむら・しどう
1972年、東京都出身。1981年6月『妹背山婦女庭訓』で2代目中村獅童を名乗り、初舞台。2002年映画『ピンポン』で準主役のドラゴンを演じ、第26回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、新人賞5冠を受賞。2015年に絵本『あらしのよるに』を題材にした新作歌舞伎を上演、2016年より続いている歌舞伎とデジタル技術を融合させて実現した「超歌舞伎」ではバーチャルシンガーの初音ミクと共演した。歌舞伎作品だけでなく、映像作品への出演も多く、幅広いジャンルで活躍している。
『超歌舞伎2022 Powered by NTT』
歌舞伎俳優の中村獅童とバーチャルシンガーの初音ミクが競演する「超歌舞伎」は、2016年の「ニコニコ超会議」で初演されて好評を博し、2019年には京都・南座でも上演された。伝統芸能とNTTの研究所が開発した最新技術でさらなる進化を遂げ、東京、京都、名古屋、福岡の全国4都市で上演される。
今回上演されるのは「ニコニコ超会議2022」で披露された最新作。古典作品の『妹背山婦女庭訓』を元にした作品で、運命に翻弄されながらも悪に立ち向かう人々の強さや絆などが描かれている。
出演は中村獅童、初音ミク、小川陽喜、澤村國矢、中村蝶紫ほか。
新橋演舞場2022年8月21日〜9月3日
南座2022年9月8日〜25日
一、『超歌舞伎のみかた』 二、『萬代春歌舞伎踊』 三、『永遠花誉功』
(本公演)一等席1万3000円ほか
チケットホン松竹:0570-000-489(10時〜17時)
URL:
https://chokabuki.jp/2022theatre/※福岡、名古屋公演あり
表示価格はすべて税込みです。
撮影/岡積千可 構成・文/山下シオン ヘア&メイク/masato at B.I.G.S〈marr〉 スタイリング/富田彩人
カーディガン2万3100円 シャツ2万5300円 パンツ2万6400円/すべてSOPH.(https://www.soph.net/)
『家庭画報』2022年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。