365日 花散歩に出かけよう 日々、何気なく歩く道や街で出会う花や花木の名前がわかれば、もっと散歩が楽しくなります。ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが、季節の花や花木を毎日紹介。住宅街でも見つかる身近な植物や、人気の園芸品種もピックアップ。栽培のコツも紹介します。
一覧はこちら>> ヒガンバナ
ガーデンの木の根元で咲くヒガンバナ。お彼岸の前から咲いているエリアもあるので、探してみてください。■属科・タイプ:ヒガンバナ科の夏植え球根
■花期:9月上旬〜10月上旬
■草丈:40〜50cm
花色の鮮やかさだけでなく、繊細な花形にもご注目を!
ヒガンバナはマンジュシャゲ=曼珠沙華とも呼ばれ、お彼岸の頃に咲くことで知られています。学名はリコリス・ラジアータ。そう、
9月4日にご紹介したリコリスの一種です。日本ではとくになじみ深く、リコリスは知らないけれどヒガンバナは知っているという人も多いので、ヒガンバナとしてあらためてご紹介します。
お彼岸の頃になると田んぼや畑のあぜ道で咲いているのをよく見かけますが、欧米でのリコリスの人気に伴い、日本でも鮮やかな朱赤の花を咲かせるヒガンバナを群生させる景色がつくられるようになり、ヒガンバナの名所として人気を集めています。燃えるように赤い花の絨毯のような景色には圧倒的な美しさがあります。
個人邸の外周りや社寺の境内でもヒガンバナを咲かせている所が多いので、いつもの散歩道でもこの時季には出会えると思います。そんなときにはぜひ1輪のアップに注目してみてください。花色の強さに見惚れてつい見逃しがちですが、ヒガンバナはとても繊細な花形をしています。
長い雌しべと雄しべがすべて上向きに伸びています。アップで繊細な花姿を堪能してみてください。先日、高知県立牧野植物園を訪ねました。ここは日本の近代植物分類学の礎を築いたといわれる牧野富太郎博士の業績を顕彰することを目的に作られ、植物愛好家にはたまらなく魅力的な植物園です。
今回の訪問で牧野博士が自ら描いたヒガンバナの構造図をじっくり見る機会がありました。それによると、ヒガンバナは基本的には6個の花からなる集合花序で、長い雌しべが1本とその左右に雄しべが3本ずつ計6本あり、それらはすべて上向きに伸びます。
要するに1輪に長い雄しべと雌しべが計42本も伸びているわけで、その複雑な構造が繊細な美しさをもたらしているのだと納得しました。牧野博士が描いたヒガンバナはネット検索で見られますので、一度ご覧になってみてください。ヒガンバナの魅力を再発見し、ますます実際に見てみたくなりますよ。
栽培の難易度
ヒガンバナは花後に出葉するタイプのリコリスです。球根の植えつけ適期は7月〜8月。木陰などの半日陰でも育ちますが、日当たりのよいほうが花がよく咲きます。植えつけの際に腐葉土や堆肥を土壌に混ぜ込んでおけば、その後の追肥は必要ありません。花が終わったら、花首の下でカットします。耐寒性・耐暑性ともに強く、植えっぱなしでも翌年また咲きます。花色の鮮やかさが少し褪せたと感じたら、春に緩効性肥料をまいておくと再び鮮やかになります。
【難易度】
★ 容易・初心者向け
★★ 標準・初級〜中級者向け
★★★ 少し難しい・中級〜上級者向け
★★★★ 難しい・上級者向け
★★★★★ 栽培環境が限られる 高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。