師匠と親の生きる姿から学んだ真剣勝負で、護摩修法に挑む
火は仏の知恵を象徴し、人間の煩悩を滅却するといわれる。護摩木を投じて炎が燃え上がるさまは圧巻。参詣者の思いをのせて天に向かう。完全無欠に見える塩沼大阿闍梨ですが、「失敗もたくさんしていますし、人間は弱いから心が折れそうになるときもある」。
そんなとき、つっかえ棒になるのが「右も左もわからなかった」19歳の少年を預かり、修行の親となってくれた師匠の五條順教師(ごじょうじゅんきょう)(2代目金峯山修験本宗管長)であり、常に手を抜かず真剣に生きる背中を見せてくれるお母さまの存在でした。
「阿闍梨さんだから修行の道は極めていくと信じていましたが、若くして山に入りましたので、満行したとしても世間のことはあまりわからなかったと思うんです。ですから皆さまに、いじめ抜いてください。その代わり、10年20年先を見て育ててほしいとお願いしました」と語るお母さまに、「母は修行僧よりも私に厳しくあたっていたんですよ」と笑う塩沼大阿闍梨。子を信じるがゆえの母心は、しっかり伝わっていました。
「妥協せずに真剣に生きる姿をそばで見せてくれた師匠と親がいたことで、生涯まっすぐに生きなければ、と思える」。
そして、護摩修法にいっさい手を抜かず真剣勝負で挑む塩沼大阿闍梨の姿勢に参詣者が魅せられ、生きる力をいただいて慈眼寺から日常に戻っていく今があるのです。
「一所懸命進んでいけば、しんどいことの先に必ず道は開けます」
Information
福聚山慈眼寺
宮城県仙台市太白区秋保町馬場字滝原89-2
撮影/鍋島徳恭 構成・取材・文/小松庸子
『家庭画報』2022年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。