大阿闍梨、塩沼亮潤 その達観の境地 第2回(全3回) 宮城県仙台市秋保の里山に佇む福聚山慈眼寺。このお寺の住職こそ、1300年間に2人のみが成し遂げた最難関の荒行「大峯千日回峰行」満行者、塩沼亮潤(しおぬま・りょうじゅん)大阿闍梨(だいあじゃり)。慈眼寺での日常から見える“達観の境地”に迫ります。
前回の記事はこちら>> 写真と宝物に見る、大阿闍梨となり、今にいたるまでの足跡
山に籠もって厳しい修行を自らに課すことで悟りを得る「修験道」。その発祥とされるのが約1300年前、役行者(えんのぎょうじゃ)によって開山された奈良県吉野山の金峯山寺(きんぷせんじ)になります。もともと、回峰行は比叡山で行われており、大峯山に至る古道は過酷すぎて使われていませんでした。明治時代、金峯山寺から大峯山に至る新ルートが整備されたことで、大峯山でも行われるようになったのです。
とはいっても、1999年に塩沼大阿闍梨が成し遂げた後、満行者が出ていないことからも、いかに極限の荒行であるかがわかります。支えとなったのは自分を信じて送り出してくれた師匠、祖母、母、仲間たちでした。
死を覚悟して挑み、開けた修験道大阿闍梨への道
高校生時代に撮った祖母・母との写真出家する日の朝ご飯の後、お母さまは塩沼大阿闍梨のご飯茶碗やお箸をゴミ箱に捨て、送り出す覚悟を見せた。
大峯千日回峰行にて。飛ぶように崖を降りる修行を重ねた9年間。熊に背後から襲われたとき、落石、10日間で11キロ痩せた体調不良時の3回は死を意識した。
「行の最中は死を覚悟するほど辛かったが、おかげで人生という崖の登り方を学びました」
崖の登り方は人生と重なるんです。うまくできるか悩む前にとにかくやってみる。止まったら進めないですから。心が弱ったとき、私を信じて送り出してくれた師匠と親が心のつっかえ棒になりました。親が子を信じ、子も親を信じることが生きる力になるのです。
大峯千日回峰行満行の満行式孫のハレの日。遠慮がちに端にいたお祖母さまに気がついた師匠の声かけで、塩沼大阿闍梨が真ん中にいざなった。
慈眼寺物語がここから始まった建物と庭の設計、地ならし、材木の運送、柿渋塗りなど……。自分たちでお寺を作り上げて今に至る。
心を支え、人生をともに歩いてきた宝物
「密教の大事な概念“身口意(しんくうい)の三密"――、
態度と言葉と心、その3つが伴って初めて相手に真実が伝わるのです」行動があれど言葉がない、言葉があれど心がない、心があれど行動がない。3つが揃わないと相手に真実は伝わらない。19 歳の頃、師匠に教えられたことですが、人生経験を重ねるごとに味わい深くなる。30年経った今でも私の行動の原点です。
1968年
宮城県仙台市生まれ1986年
東北高校卒業
1987年
吉野山修験本宗総本山金峯山寺で出家。
修験行院に入る
1989年
同・正行院に入る
1991年
同・大行院に入る
1991年
奈良県吉野・金峯山寺において
大峯百日回峰行満行
【大峯百日回峰行(おおみねひゃくにちかいほうぎょう)】
金峯山修験本宗が奈良県南部の大峯山にて、5月3日の山開きから8月10日の期間に行う行の一つ。標高差1355メートル、片道24キロの吉野山金峯山寺蔵王堂から大峯山山上ヶ岳頂上の大峯山寺本堂までを100日間往復する。毎晩23時30分に起床、滝行を行ってから参籠所で白装束をまとい、0時半出発。最初の50日は一日で片道を進み、2日で一往復。51日目からは一日一往復。
1992年
大峯千日回峰行入行
1999年
奈良県吉野・金峯山寺
1300年の歴史において
2人目となる大峯千日回峰行満行
【大峯千日回峰行】
百日回峰行を満行した修行者にのみ許される行。千日回峰行では、5月3日から9月3日までが行の期間と定められている。その間、金峯山寺蔵王堂から24キロ先の大峯山山上ヶ岳頂上にある大峯山寺本堂までを毎日16時間かけて往復。山道を毎日往復48キロ、1000日間歩き続けるその修行は足掛け9年間に及ぶ。
2000年
四無行満行
【四無行(しむぎょう)】
9日間、食べず、飲まず、寝ず、横にならずの行。行の間、お不動様のご真言と蔵王権現のご真言をそれぞれ10万遍ずつ唱えるほか、行の手助けをしてくれる修行僧と一緒に毎日午前2時に仏様に供えるお水を汲みに行く。かなり過酷な行のため、最初に“浄衣"という死出装束で身を包み、本山の管長、山のご住職、喪服を着た親族の前で生き葬式を行い、挨拶をしてから行に入る。
2003年
宮城県仙台市秋保に慈眼寺建立、住職に
2006年
八千枚大護摩供満行
【八千枚大護摩供(はっせんまいだいごまく)】
ここでいう“八千枚”とは“たくさん”の意味。100日間に渡り五穀と塩を断った後、護摩堂内で人々の幸せを祈りながら一昼夜数万本の護摩木を焚き続ける行。
地元の食材を愛する料理人を応援!
フランスでの修業後、東京、シンガポールで総料理長を務め仙台に戻った同郷の松本圭介シェフ。地元の食材、和魂洋才がテーマの独創的で繊細な料理に共鳴し、塩沼大阿闍梨のプライベートな集いでコース料理をオーダーするように。
本日のメニューは「デリシャストマトカルパッチョ ぶどうえび&新玉葱タルタル AKIUで採れたマスカットベリーAオイルにて」(左)、「みやぎ春野菜のエチュべ 柔らかい風味のハーブミルク」(右)。
撮影/鍋島徳恭 構成・取材・文/小松庸子
『家庭画報』2022年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。