カルチャー&ホビー

工藤美代子さん綴る【快楽(けらく)】第5回「グリーンの瞳のラルフ君(後編)」

2022.08.15

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とにかくマサ子さんは亡くなる寸前まで若い男性がいた。しかも90歳を過ぎた頃に、その人と結婚した。娘の三奈江さんには何の報告もなかった。いや、同棲していることは勘づいていたのだが、関わりたくなかったらしい。

ところが、マサ子さんが亡くなってみると1000坪の土地に建つ京都の家や軽井沢の別荘、都内に所有していた一棟建てのマンションなどの名義が、すべて若い夫に書き換えられていたそうだ。

別にラルフ君のご両親だって、マサ子さんの遺産など当てにしなくても、じゅうぶんに豊かな暮らしをしていける。ジョージはずっとカナダの大手企業の日本支社長を務めて引退した。だから、妻の実家の財産を狙っていたわけではないが、それにしても90歳を過ぎてから結婚した男がすべての財産を相続したことに驚いた。弁護士に相談して調べてもらったところ、マサ子さんは男のために贈与税まできちんと払ってあげて、彼の名義に書き換えていた。さらに驚いたことに、若い夫はマサ子さんが亡くなる2か月前に病死してしまったのだ。まだ70代だったらしい。彼には子供もいなかった。結果的には、マサ子さんの莫大な財産は、亡くなった若い夫の親族、つまり彼の兄弟姉妹、甥姪に分散して渡ったという。


しかし、ラルフ君は特に憤った口調にもならず、淡々と話してくれた。そこに育ちの良さが表れている。

「おばあちゃまはお元気過ぎたのかもしれないわね」と私が無理に結論を導き出そうとすると、ラルフ君から意外な言葉が返ってきた。

「おばあちゃんだけじゃなくて、異性に興味を持つ90代はたくさんいます。この前、あるパーティーで93歳の女性を紹介されたんです。ボクが挨拶すると握手を求められて、そのままボクの手を握って15分くらい放さないんです。振りほどくのも失礼だからボクはじっと15分間握られたままでいました。その方はご自身について、いろいろ喋っていました。そして最後に手を放すときに、『ありがとう。お会い出来て良かったわ。とっても楽しかったわ』と笑って、持っていたカクテルバッグの中から1万円札を5枚出して、『はい。お礼ね』とくれるんです。いらないと断っても、『あなたにあげたいのよ』と言うから、もらっちゃいました。3分につき1万円なら、まあいいかと思って」

あっけらかんとしたラルフ君の口調に私は吹き出してしまった。

「なかなか積極的な女性もいるものなのね」と感心して見せると、ラルフ君がちょっと小首を傾げた。

「えっと、ボクはたいがいの場合は女性からアクションを起こされるから、珍しくはないんです」

これまた、意表をつく言葉だ。
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