次の九州は“美味しい”を訪ねて 第9回(全23回) 佐賀県と長崎県は2022年9月に西九州新幹線の開業を控え、旅の目的地として再び注目が集まっています。今回は新幹線が走るエリアを軸に「美味しい」をキーワードに探訪しました。
前回の記事はこちら>> オーガニック直売所タネト (千々石町)
プラスチックを使わずにディスプレイされた野菜の約半数は自家採種された在来種野菜。見慣れない野菜の美味しい食べ方談議が交わされるなど、店内には心地いい温もりが漂う。地元発の「真っ当な美味」が一堂に。守り繫ぎたい農業の発信地
店頭に並ぶ、勝間南瓜(こつまなんきん)や黒田五寸人参、平家きゅうり……。オーガニックや在来種などの野菜に関心を持つかたたちの間で今、注目の直売所が長崎県雲仙市にあります。元々は東京・吉祥寺で奥さまの典子さんと、飲食店や料理教室を運営していた「オーガニックベース」の奥津 爾(ちかし)さん。
オーガニック直売所店頭で、岩崎さんのかぼちゃとうりを手にする奥津さん。約40年前から有機栽培を行い、自家採種もしている雲仙市の農家、岩崎政利さんとの出会いをきっかけに家族で雲仙市に移住しました。
「岩崎さんのにんじんの花畑が、本当に美しくて。在来種の畑はこんなにも生命力に溢れているのかと感動しました」。
しかし、岩崎さんのオーガニック野菜はほぼ都市部に送られており、地元では買える場所がないことに衝撃を受けます。それなら自分で直売所を作ろうと決意。2019年秋、「オーガニック直売所タネト」を開きました。
「まず、毎日料理を作る主婦のかたがたが来てくださった。手頃な値段で入手できる真っ当な美味しい野菜があれば、皆さん買いたいんです。地元の野菜を買って帰ったら、スーパーのものとは圧倒的に味が違う!と喜んでくださって」。
ワークショップやSNSを通じて次第に広まり、今や地域の多くの飲食店がタネトで扱う地元農家の地元野菜を使うようになりました。
在来種を守り繫いでいく「タネト」の象徴的な野菜が勝間南瓜。在来種とはその地の風土と相性がよく、長年栽培されてきた品種のこと。規格化された野菜が求められる現代にあって種類が年々減っている。いい在来種野菜は腐らず、写真のかぼちゃのように徐々に水分が抜け落ちて朽ちていく。栄養分は種に託されるので、驚くべきことに下のかぼちゃの種も蒔けば育つという。九州旅行の際は、ぜひ足を延ばして在来種野菜を買われてみてはいかがでしょう。珍しい野菜に心奪われ、あれもこれも食べてみたくなること間違いないので、できたら旅の最終日にご予定されることをおすすめします。
下のフォトギャラリーで詳しくご紹介します。 Information
オーガニック直売所タネト
長崎県雲仙市千々石町丙2138-1
撮影/本誌・坂本正行 取材・文/小松庸子 取材協力/長崎県 九州観光機構 九州旅客鉄道
『家庭画報』2022年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。