2019年12月5日の(中村)勘三郎の伯父の法事のときに(中村)勘九郎兄から「こういう面白い漫画があるけど知っている?」と渡されたのが、手塚治虫先生の『新選組』でした。
勘九郎の兄は以前からこの漫画を歌舞伎で演ってみたかったそうですが、「年齢的に今の自分が演じるキャラクターではない」といい、「これは宜生(歌之助さんの本名)にしかできないよ」といってくださったんです。まだまだ先のお話だと思っていましたが、思っていたより早く来ました(笑)。
『石橋』の獅子の精。2021年10月、御園座。©松竹勘九郎の兄は最初から深草丘十郎が僕で、鎌切大作は兄の(中村)福之助だとイメージしていたようです。
丘十郎は少し内気な性格だけれども、仇討ちにかける思いや内に秘めている自分の信念がある人物。一方で鎌切大作はすごく楽観的でフレンドリーな面もある明るい人物なのですが、こちらも内に秘めているものがあって、それが兄の福之助にそっくりだと僕も思いました。
僕たちのことを見てくれていたことが嬉しかったですし、勘九郎の兄、七之助の兄だけでなく、僕たちに小さい頃から多くを教えてくださった先輩がたとご一緒できることが心強いです。
新作歌舞伎には野田秀樹さんの『野田版 鼠小僧』で勘三郎の伯父と共演したことがあります。まだ子どもだった僕に歌舞伎役者が新作を創る意味など、勘三郎の伯父の心を通して教えていただいたことを大切にして、それをお客さまにお届けできたらと思います。
中村歌之助(なかむら・うたのすけ)
2001年東京生まれ。父は8代目中村芝翫。長兄は4代目中村橋之助、次兄は3代目中村福之助。2004年9月、歌舞伎座『菊薫縁羽衣』の宿星の童子で初代中村宜生を名乗り、初舞台。2016年10月、11月歌舞伎座『初帆上成駒宝船』の歌彦、『祝勢揃壽連獅子』の狂言師後に仔獅子の精、『芝翫奴』の奴駒平ほかで4代目中村歌之助を襲名。
今月の歌舞伎
【南座】
坂東玉三郎 特別公演
片岡愛之助出演
『東海道四谷怪談』は4世鶴屋南北の傑作で、四谷のお岩稲荷にまつわる噂話などをもとにした怪談の定番作品。江戸時代の庶民の生活を描いた生世話物の代表作でもある。お岩の悲哀や執念の恐ろしさが漂う「髪梳き」と呼ばれる名場面や伊右衛門の色悪などが見どころ。『元禄花見踊』は桜が満開の上野の山で、花見を楽しむ元禄期の風情が漂う舞踊。出演は坂東玉三郎、片岡愛之助ほか。
〜2022年8月28日(22日は休演)
14時開演一、『東海道四谷怪談』 二、『元禄花見踊』
1等席1万7000円ほか
チケットホン松竹:0570-000-489
【歌舞伎座】
八月納涼歌舞伎
~2022年8月30日
●第一部 11時開演一、『新選組』 二、『闇梅百物語』
●第二部 15時開演一、『安政奇聞佃夜嵐』 二、澤瀉十種の内『浮世風呂』
●第三部 18時15分開演『東海道中膝栗毛 弥次喜多流離譚』
※中村歌之助さんは第一部の『新選組』に深草丘十郎役で出演します。
1等席1万6000円ほか
チケットホン松竹:0570-000-489
公演の詳細は歌舞伎公式総合サイトをご参照ください。
歌舞伎美人
https://www.kabuki-bito.jp 表示価格はすべて税込みです。 ※「澤瀉十種」の「瀉」のつくりは、正しくは“わかんむり”です
撮影/岡積千可 構成・文/山下シオン ヘア&メイク/滝波一樹〈GON.〉
『家庭画報』2022年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。