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【スーパー獣医 野村潤一郎先生の動物エッセイ】名付けが犬に影響を及ぼす?

2022.08.24

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「身体の一部」を連想させる名もお勧めできない気がする。該当する部位に問題が発生することが非常に多いためである。ある奥さんがチワワに頰ずりをしながら言った。

「この子の名前はヒフちゃんです。1月2日に生まれたからです」

私の悪い予感は的中した。ヒフは遺伝性の脳下垂体異常から成長ホルモン欠乏性の皮膚病になって全身がカサブタだらけになってしまった。


先日、17歳という高齢で顔面にできた巨大腫瘍摘出を敢行した犬にも名前のもたらす運命を感じた。この博打のような危険なオペを受けた子の名は、やはりと言うかズバリと言うか“メンちゃん”だった。

こういった話をしたところ、ある女性が震えあがって犬の名を改名した。“ハナ”を“ハナサクヒメ”に改めたのだった。結局“ハナ”とついているので変わりばえしないと思ったが、すっかり歳をとった今でも鼻の病気にはなっていない。飼い主の極上の愛と強い願いは、名前がもたらす呪縛を打ち消す力があるのかもしれない。

皆さんの周囲には難治性の外耳炎の“ミミちゃん”や眼病にかかった“メメちゃん”はいないだろうか。科学者のはしくれたるこの私がオカルトチックなこじつけをするのは良くないこととわかっているが、データ的にはその傾向を認めざるを得ない。注意していただきたい。

イラスト/コバヤシヨシノリ

飼い主が命名する犬の名にはいくつものパターンがある。

特に意味がなく可愛らしく聞こえ、かつ耳に心地の良い名前に“ルル”とか“ララ”、または“ナナ”などがある。サラッとしていて可もなく不可もない印象ではあるが、言霊エネルギー含有率が少なそうなので、変なことにはなりにくいのではなかろうか。

先の“潤一郎”や“裕次郎” “永吉” “文太”など、実在する人物の名を愛犬に付ける場合、飼い主はオリジナルの中にある個性にあやかりたいと考えるらしいが、これには特にまずい現象を確認していない。しかし、何らかの作用が本当にあるのだとすると、好まざる部分も似てしまう可能性だってある。それが許せるかが問題だ。

“ペス” “ポチ” “コロ”などの場合は犬の名前一覧表的なものの中から好みのものを選んでいるだけだと思うが、一周回ってむしろ新しいかもしれない。

ただし“ラッキー”という名の犬はなぜかアンラッキーな一生を送ることが多い。これについては例によって、少し性格がヒネクレている名前の神に狙い撃ちされているような気がする。

自分の趣味に関する言葉を名前にする人もいる。たとえばクルマ好きの男性の場合は“ラリー” “ターボ” “パワー”などと名付けたりするが、人混みで「パワー!」とか叫ぶのは“きんに君”みたいでちょっと気が引ける。

恥ずかしいといえば、“ジョセフィーヌ” “クリスティーヌ” “シモーヌ”などのフランスっぽい名前を犬につけて、「ヌーヌー」言うのも個人的にはちょっと……と思っていたのだが、今こうして文章に書きながら何度も発音しているうちに、何か素敵かもしれないと思いはじめた。不思議である。

女性の場合は食べ物の名称を好む方が大変に多い。とある綺麗なお嬢さんが4頭のミニチュアダックスを連れてやって来た。

「センセ、この子は“キムチ”この子は“カルビ”この子は“ロース”そしてこの子は……」

「あ、わかったビビンパでしょ!」

と先読みすると、「ブー! 残念でした“アンニンちゃん”でしたー」と言う。どうやらもうデザートの時間だったらしい。
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