いろんな視点から創り上げる
僕は読み取ることが仕事なので、言葉から匂い立ってくるものについて、それがどういうことなのかを常々考えています。
『COLOR』の原作となった坪倉(優介)さんの本にある言葉には、匂いや湿度、音色みたいなものがすごく宿っていて、追体験するような感覚で読ませていただきました。
書かれている文章には単にリズミカルということではなく、いちばん感性を伝えるために適した感覚的なツールである“オノマトペ”が多かったので、演劇というメディアで表現するのに相性がいいのかなというふうに思いました。
今回の楽曲は植村花菜さんが手がけるポップスなのですが、ポップスをミュージカルで使うのは簡単ではありません。そこにある思いをどういう形で、どう突破していくのか、あるいは違う形に持っていけるのか、試行錯誤が始まります。
そもそもポップスというものはマーケットの中で批評されているものですが、ミュージカルという作品の中でシンプルなポップスを使うということは、無批評になる可能性がある。その危険と向き合い、いろんな意見を交わしながら創り上げていきます。
登場人物は“ぼく”と“母”、そして“大切な人たち”と名付けられた3役があるわけですが、2人を取りまくこの第三者の視点というものが演劇にする意味があって、絶対に面白いんです。
何もないところから、どういう役割で存在するのかということを考えています。クリエイティブにはいろんな立場やいろんな視点が必要で、今回は幸運なことにキャスト全員が一緒に現場に入って、一緒に創ることができています。
僕と浦井(健治)くんが「今度は僕がそっちをやってみるね」と役を交換しながら、作品のいいところを見つけていけばいいなと思っています。
成河(そんは)
1981年、東京生まれ。大学時代から演劇を始める。近年の舞台では『子午線の祀り』、ミュージカル『スリル・ミー』、スペクタクルリーディング『バイオーム』など、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、映画では『カツベン!』、『真夜中乙女戦争』に出演。2011年に第18回読売演劇大賞優秀男優賞受賞。舞台を中心に映像作品などで、幅広く活躍している。
ミュージカル『COLOR』
草木染作家の坪倉優介が自身の経験を綴ったノンフィクション『記憶喪失になったぼくが見た世界』を原作にミュージカル化した作品。シンガーソングライターの植村花菜が音楽と歌詞、高橋知伽江が脚本と歌詞、木原健太郎が編曲と音楽監督を担当。演出は小山ゆうなが手がける。
登場人物は“ぼく”、“母”、“大切な人たち”のみ。交通事故で“ぼく”は記憶喪失になり、知っている人のことだけでなく、自身の言葉や感覚まで失ってしまう。“ぼく”と“大切な人たち”を浦井健治と成河が演じ、“母”を濱田めぐみと柚希礼音が演じる。
新国立劇場 小劇場2022年9月5日~25日
S席1万1000円(全席指定)ほか
ホリプロチケットセンター:03(3490)4949(平日11時~18時)
URL:
https://horipro-stage.jp/stage/color2022/※大阪、愛知公演あり
表示価格はすべて税込みです。
構成・文/山下シオン
『家庭画報』2022年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。