驚いたのは樹齢150年をこえるヤマザクラが姿を現したときだ。一抱えもある幹は、浅葱色の苔がびっしりとはりついていた。枝は、よじれたり枯れ枝になったりしているところがあるが、樹形はかろうじてヤマザクラの風格を保っている。
ただ、他の木々と同じく、竹に相当いじめられていたらしく、下枝は遠慮がちにひろがり、全体に葉付きが悪かったのは事実だ。 一緒に竹切りをしていた西村さんは、「こんなとこに、桜があったやなんて、知らんかったなー」と、感慨深げに見つめていた。
私もいつも下の道は通っていたのだけれど、こ んな巨木があるとは、全く気づかなかった。
これは近くにある棚田桜。土手の上にあるので、数百メートル離れているが、アトリエの裏からでもよく見える。この花が満開になる頃、田んぼに水が入り始め、本格的な春がやってくる。(「今森光彦環境農家への道 第7回」に続く。4月10日更新予定。)
今森光彦/Mitsuhiko Imamori
写真家。切り紙作家。
1954年滋賀県生まれ。第20回木村伊兵衛写真賞、第28回土門拳賞などを受賞。著書に『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社)、『今森光彦ペーパーカットアート おとなの切り紙』(山と溪谷社)ほか。
この記事は、『家庭画報』2017年4月号掲載の連載をWEB用に再構成したものです。