所蔵・画像提供/胎内市教育委員会 新潟県指定文化財赤漆と黒漆で塗り分けられた水差し形木製容器薄く削り込んだ木の容器に漆を塗り、赤と黒の二色一対に仕上げた水差し。黒漆塗りの容器の中にはニワトコやヤマグワ、サルナシの種が残っていた。さらにそこにたかった虫の卵があり、果実を発酵させた酒を注いだ容器であったことが確実視される。
自然の人工化
文=小林達雄(考古学者)
鳥たちは餌にありつくとすぐに啄(ついば)んで腹に収める。縄文人は異(ちが)う。頰張ることはさておき、まず用意した袋か籠にひたすら取り込む。ムラに戻るや様々な処理作業が続く。毒抜き、アク抜き、渋抜きのための日干し、水晒し、灰まぶし、燻製その他がある。多様な調理はそれからだ。
木の実は石臼で粉にして水や果汁などを加え、焼いて仕上げる。実際に、かりんとう、クッキー、ハンバーグのような炭化した出土品がある。なぜか縄文人が執着していたツルマメは煮ても焼いても到底食えたものではないのだが、つい最近山梨の仲間が納豆化実験に成功した。
自然の人工化が発酵技術さえ手にしていた可能性が浮上し、またしても縄文人が利巧に見えてきた。自然を克服するのでなく、適応を深めて発展してきた縄文人。自然との共生共存という日本的観点は、縄文時代に生まれたものであった。
上画像の容器が出土した分谷地A遺跡(新潟県胎内市熱田坂) 『家庭画報』2022年9月号掲載。
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