昭和の香りが漂うレトロな喫茶店で、向かい合って座ったミエさんは、相変わらずふくよかで、ベージュのワンピースを着ていた。
「もう本当にびっくりするようなことがあって、ご相談したかったんだけど、もっとびっくりするようなことが続いたもんだから。私も、そろそろここで態度をはっきりさせなければいけないんですけど、どちらの道を選ぶにしても工藤さんに教えてもらいたいんですよ。どういう手順で、どうしたらいいか」
「えっと、それは木村さんについてですね?」
「ええ、彼の本心がどうもわからなくて」
そう言われても、私だって男心なんて正確に読めたためしがない。読めないからこそ失敗の連続だったわけだ。
「いえ、それがね聞いて下さい。あの人ね、所帯持ちだったんです」
そりゃあ83歳になる男である。所帯だって結婚歴だってあるだろう。そんなに驚かなくてもと考えるのが普通だが、ミエさんは違った。
「まさか、奥さんがいるなんて夢にも思っていなかったし、初めに私が『ご家族は?』って尋ねたら『一人ですよ』って答えたのよ」
「つまり噓をついていた」
「いえね、彼に言わせると噓なんてついていない。奥さんは老人ホームに入っているから、自分は一人暮らしだって」