きものの解説は、記事の最後にある「フォトギャラリー」をご覧ください。たかが人間が取り決めた
時を区切る式典、されど成長の過程を慈しむことを五感で感じさせてくれるセレモニー。 やがて大半の卒業生同様、娘もアメリカで就職活動真っ只中。日本、英国、米国で自ら培った22年の経験を簡素な履歴書にのっけて、面接を渡り歩く。なにひとつ確証のない人生の現実につまずきながら、また埃を払って立ち上がる彼女の背中を、私は見つめることしかできない。
ふと隣を見ると、同じ姿を夫もじっと眺めていた。ここまでなんとか一緒に記してきたはずの「架空の子育て日誌」は、ずしりと分厚い。そのラストページにたどり着こうとしている今、彼の瞳のうんと奥には、何が浮かんでいるのだろう。あの時、大人になる一歩手前の私を見つめていた父と母の心情と、夫と私の心模様の現在地はたぶん異なるけれど、親というものが感じる、子の未来を案じるそこはかとない切なさだけは、どこか重なるような気がした。
母と娘の新たなる邂逅 内田也哉子の「衣(きぬ)だより」
撮影/森山雅智 きものコーディネート・着付け/石田節子 ヘア&メイク/Eita〈Iris〉 着付け/杉山優子 構成・取材・文/樺澤貴子 撮影協力/自由学園 明日館
『家庭画報』2022年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。