水野 梓東京都出身。早稲田大学第一文学部・オレゴン大学ジャーナリズム学部卒業。社会部デスク、中国総局特派員、国際部デスクを経て、ドキュメンタリー番組のディレクター・プロデューサー、新聞社編集委員、夕方のニュース番組のデスクなどを務める。現在は経済部デスクとして報道番組『深層NEWS』(BS日テレ)のキャスターを務める。日本に横たわる社会問題に切り込む
テレビ局女性報道記者の活躍劇
本書の主人公は、深夜枠のドキュメンタリー番組を担当するテレビ局の女性記者でシングルマザーの榊 美貴。
高齢者施設で相次ぐ不審死と、美貴が偶然出会った無戸籍の青年との関連が明らかになる過程で、格差、虐待、売春、貧困など、社会に横たわる問題が次々とあぶり出されていく。
実は、著者の水野 梓さんもテレビ局に勤務するシングルマザーの報道記者だ。主人公に自身を投影させているという。
「私自身が報道記者として四半世紀を過ごすなかで、疑問に思ったことや怒りを感じたことを小説の形にしています。また、私の父が51歳でパーキンソン病を発症し、71歳で亡くなるまでの20年間、そばで見続け、介護し、看取る中で“生きる資格”とは何かということを考え続けたことも、本作のテーマにつながっているかもしれません。
作中の児童養護施設も実際の取材に基づいており、大阪の飛田新地や西成にも足を運びました。やはり実際に自分の目で見て体を通り抜けたことは重みをもちます。書評でネタを詰め込みすぎると書かれたり、周囲から早々にネタ切れになるのではと心配されたりするのですが、今も取材を続けながら日々新たな疑問や怒りが湧いているので、その心配はなさそうですね」
主人公の美貴は、取材に打ち込みながらも、常に息子の陸を思い、夜の不在時に誰に見てもらうか、食事をどうするかなどを手配し、一緒にいる時間があまり取れないことに胸を痛めている。
この点も、水野さんの実体験に近いのだろうか。仕事と子育てのなか、執筆にかける時間をどのように捻出しているのだろう。
「家事全般は、基本的に手抜きをしています。息子の洋服はアイロン不要のもののみで、クローゼットの引き出しに“半そで、長そで、したぎ、くつ下”とラベルを貼り、自分で出し入れできるようにしています。
“私たちは力を合わせて生活を営むチームメイトなんだからね”といい聞かせて、自分でできることは自分でするようにしつけています。今は男性でも家事全般ができないとパートナーが見つからない時代ですから、将来、母のスパルタ教育に感謝することになると思います(笑)」
最後に、次回作について伺った。
「私は大学で文芸を専修し、卒論も小説でした。テレビ局に就職してからもずっと書き続けています。前作と本作は社会派ミステリーというジャンルですが、ほかにもさまざまな小説を書いています。次回作は、本作とはまったく違うものになる予定です」
容易に答えが見つからない社会問題に、フィクションの小説、ノンフィクションのテレビ報道の両面から光を当てる水野さんの存在に希望を見た。
装画/佐野みゆき 装幀/岡本歌織『名もなき子』
水野 梓 著/ポプラ社テレビ局でドキュメンタリー番組を担当する榊 美貴が偶然出会った青年、小林 悟。その頃、世間では高齢者介護施設での不審死が連続していた。事件の真相を追うにつれ、悟の生い立ちや家族、事件との関連性が明らかになる。第1作『蝶の眠る場所』に続く、社会派ミステリー第2作。
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『家庭画報』2022年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。