演じるプレッシャーが大きいのは
実は、新作よりも古典の芝居です
――国立劇場3月歌舞伎公演は「明治150年記念」と銘打って、2つの演目が上演されます。ひとつ目は、「増補忠臣蔵 —本蔵下屋敷— 」。「仮名手本忠臣蔵」の外伝的なストーリーで、中村鴈治郎さんが桃井若狭之助を初役で演じます。梅枝さんは桃井若狭之助の妹にして塩冶判官の弟の許嫁である、三千歳姫の役。
梅枝「姫、といっても典型的な歌舞伎のお姫様というよりは、「仮名手本忠臣蔵」に登場する小浪のような存在でしょうか。東京の大歌舞伎での上演は65年ぶりとのことですが、文楽では時々かかる演目ですので、それを参考に、歌舞伎の女方らしく演じたいと思います。幕切れが「仮名手本忠臣蔵」の九段目に繋がるようなお芝居なので、歌舞伎をよくご覧になる方には“なるほど!”と思っていただけると思います」
――こうした上演の珍しい演目や新作で、役づくりをするのは、難しいものなのでしょうか。
梅枝「古典よりも気が楽……と言ってしまうと語弊がありますが、自分で考えたりする役づくりはやりがいがあります。自分がこれまで演じてきたものをベースに、あの芝居のこの役を当てはめてみよう、と考え、稽古場で共演する方々と相談して、調整していきます。むしろ逆に古典の方が、お客様もその役をよくご存じですし、自分自身の中にも先輩が演じて来られたイメージがありますから、プレッシャーは強くなりますね」
――国立劇場3月歌舞伎公演でのもう一つの演目は「梅雨小袖昔八丈―髪結新三―」。尾上菊之助さんが初役で演じる小悪党の髪結・新三が、大店のお嬢さんであるお熊と恋仲の手代・忠七を騙して一儲けを企むお話です。梅枝さんのホームグラウンドである菊五郎劇団が数多く上演してきた世話物の名作で、初役となる手代忠七を演じることには、では、かなりのプレッシャーがあるのでしょうか。
梅枝「菊五郎劇団にとって“鉄板”のお芝居ですからね。これまでは新三にかどわかされるお熊の役を何回かさせていただいていますが、その時の忠七は父や、坂東三津五郎のおじ様でした。また、ビデオでは尾上梅幸のおじ様の忠七を拝見して、イメージがすり込まれています。それはもう、プレッシャーですよ(笑)。同じ世話物の名作、「魚屋宗五郎」でおはまを演じた時もそうでしたが、素晴らしい先輩方のお芝居が頭の中にある分、自分のできていないところが、すぐわかります。一方でお客様の前に出ると不思議なアドレナリンが出てやりすぎてしまうこともあり……今回も気を引き締めて取り組みたいと思っています」