僕は(中村)吉右衛門のおじさんと楽屋をご一緒させていただく機会が多かったので、いろんなお役の顔をしている姿を拝見したり、「この場面はうちはこうやるんだよ」とご自分が出ていない演目の解説もしてくださったりという僕にしかない経験をさせていただきました。
最後の舞台をご一緒させていただき、その後は一度も会うことが叶いませんでした。今年の「秀山祭」の出演者に吉右衛門のおじさんのお名前がないのを目にしたことで、少しずつ実感が湧いてきています。
僕は『寺子屋』の春藤玄蕃を初役で勤めさせていただきます。播磨屋にとって大事な作品で、このお役をお兄さんがたに交ざって演じられることがありがたいです。吉右衛門のおじさんには(武部)源蔵を教えていただきました。「寺子屋は源蔵の芝居だよ」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
2016年「双蝶会」より『菅原伝授手習鑑 寺子屋』の武部源蔵。 撮影/田口真佐美吉右衛門のおじさんに最初に習ったのは『仮名手本忠臣蔵』の寺岡平右衛門でした。平右衛門は喜怒哀楽が激しい人物。喜び、悲しみ、心配など、この役を通して僕は心を表に出す“役を演じる”ことを教わりました。
おじさんが演じると、まるでその役で生きているかのようなのです。細かいことの一つ一つに意味があることも言葉にしてくださいました。吉右衛門のおじさんの芸を継承し、こんなに素晴らしい人がいたということを後世に伝えることが、僕の人生の目標です。
中村種之助(なかむら・たねのすけ)
1993年東京生まれ。父は3代目中村又五郎。兄は4代目中村歌昇。1999年2月、歌舞伎座『盛綱陣屋』の小三郎で初代中村種之助を名乗り、初舞台。2015年1月、浅草公会堂『猩々』の猩々役ほかで名題昇進。屋号は播磨屋。中村吉右衛門の一門で立役、女方の両方を勤める。2015年から始めた兄との勉強会「双蝶会」では『義経千本桜』の「四ノ切」で忠信実は源九郎狐役や『傾城反魂香』のおとく役などを好演。舞踊も達者で2021年の「中村種之助 踊りの会」では『子守』、『まかしょ』、『春興鏡獅子』に挑んだ。
今月の歌舞伎
【歌舞伎座】
秀山祭九月大歌舞伎
~2022年9月27日(21日は休演)
●第一部 11時開演一、『白鷺城異聞』 二、『菅原伝授手習鑑 寺子屋』
●第二部 14時40分開演一、秀山十種の内『松浦の太鼓』劇中にて追善口上申し上げ候 二、『揚羽蝶繍姿』
●第三部 17時45分開演一、『仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場』 二、昇龍哀別瀬戸内『藤戸』
※中村種之助さんは第一部の『寺子屋』に春藤玄蕃役、第二部の『揚羽蝶繍姿』に呉服屋十兵衛、一篠大蔵長成の2役、第三部の『藤戸』に浜の男役で出演します。
1等席 1万6000円ほか
チケットホン松竹:0570-000-489
公演の詳細は歌舞伎公式総合サイトをご参照ください。
歌舞伎美人
https://www.kabuki-bito.jp 表示価格はすべて税込みです。
撮影/岡積千可 構成・文/山下シオン ヘア&メイク/横山雷志郎〈Yolken〉
『家庭画報』2022年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。