「日本の職人の素晴らしい技と心意気を再認識してほしいです」
-義丸さん
「せともの屋」
茶碗や皿が何十と並んでいます。吊り下げられた極小サイズの急須は、本体はもちろん蓋にまで細かい柄が描かれています。服部さんの緻密な仕事ぶりがよくわかる作品。昌子さんは「歌舞伎や能、オペラにも詳しい職人さんで、教養が作品に現れていました」と服部さんを懐かしみます。この作品を見ると、子どもの頃を思い出すのです
服部一郎さんは祖父、父の跡を継ぎ、高校卒業後、江戸小物細工の職人となり、約60年にわたって製作に励みました。生まれ育った葛飾・柴又に工房兼自宅があり、犬飼さんご夫婦はよくそこを訪れたといいます。三人とも生粋の江戸っ子で、意気投合したそうです。
「工房には大きなスピーカーがあって、ワーグナーが流れていました。江戸の店舗や看板に関する書籍でよく研究していましたし、歌舞伎や能、オペラにも詳しくて。そういう教養が作品に現れていました」
ご夫婦が特に感心したのが、「虫売」。「この作品を見て真っ先に頭に浮かんだのが、長唄『都風流(みやこふうりゅう)』の一節です。『柳のかげに虫うりの市松障子露くらき(柳の下に虫売りの、市松障子の屋台がおぼろにうかぶ)』。きっとこれを念頭に置いて、屋根を市松模様にしたのだろうと思って、深く感動しました」
それを服部さんに伝えたところ、「わかってくださる方がいるから、張り合いがある。素晴らしい出会いに感謝します」と話したそうです。
犬飼さんご夫婦が子供の頃は、天秤棒を担いで売りに来る魚屋など、江戸の名残を感じさせる風物がそこかしこに残っていました。
「夏は暑くて家にはいられなくて、夕暮れにはみんなで縁台で涼んでいました。そうすると、近所のおじさんが怪談をしてくれてね。服部さんの作品を見ていると、そのときしゃぶっていた飴の味や、コウモリが飛び回る様子をありありと思い出すのです」と 犬飼さんは懐かしみます。稀音家さんは「江戸の風物、そして日本の職人の素晴らしさを再認識していただけたら」としみじみおっしゃいます。
後編では、服部さんの作品を存分にご紹介!ぜひご覧ください。>> 『ときめき』は50代以上の知的好奇心旺盛な女性に向けた季刊の雑誌です。そこが知りたかった、いまさら人に聞けない……という悩みに明快にお応えする一冊です。 別冊家庭画報『ときめき』 2017春号
撮影 齋藤幹朗 取材・文 宮本 柊
別冊家庭画報『ときめき』 2017春号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。