365日 花散歩に出かけよう 日々、何気なく歩く道や街で出会う花や花木の名前がわかれば、もっと散歩が楽しくなります。ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが、季節の花や花木を毎日紹介。住宅街でも見つかる身近な植物や、人気の園芸品種もピックアップ。栽培のコツも紹介します。
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花径2〜2.5cmの花がたくさん咲くポットマムの‘エクセレントマム ピコ’。かわいらしいオレンジ色の花が秋の雰囲気によく似合います。■属科・タイプ:キク科の宿根草
■花期:6月〜翌年1月
■草丈:10〜70cm
晩秋から咲くキクが、庭の一年のフィナーレを飾ります
公園の花壇や庭に植えられたキクが満開になる季節です。キクは秋を代表する花の一つですよね。ところがキクにはさまざまな種類があり、初夏に開花するタイプ、夏に開花するタイプ、さらに晩秋から翌年の1月にかけて開花するタイプなどがあります。なかには初夏と秋の2回開花するものもあり、早春〜春を除けば、ほぼ一年中何かしらの種類を見かけることができます。
なかでも秋咲きのタイプは品種も豊富にあり、キクに関するイベントも秋に開催されます。見事な仕立てのキクは、植物園などで愛でるとして、今回は公園や庭でよく見かけるスプレーギクについて紹介します。
スプレーギクとは、枝分かれして小さな花がたくさん咲くタイプで、スプレーマムとも呼ばれます。日本生まれのもの、イギリスなど海外生まれのものがありますが、最近よく出回るのがポットマムです。1950年代にアメリカで矮性の園芸品種として育成された鉢植え用のキクで、秋に開花します。ガーデンマムと呼ばれるものもポットマムの1種です。晩秋に彩りが少なくなる庭で、あでやかな色の花をもりもりと咲かせるスプレーギクは、まさに庭の一年のフィナーレを飾る花ではないかと思います。
さて、江戸時代に大きな園芸ブームが起こったことをご存じでしょうか。江戸園芸研究家の小笠原左衛門尉亮軒(おがさわら・さえもんのじょうりょうけん)さんによると、徳川家の将軍に花好きが多かったことから、まず寛永のツバキからブームが始まり、元禄のツツジ、享保のカエデと続いたそうです。その中で庶民レベルまで大流行したのが正徳のキクだそうです。
今では数え切れないほど種類がある宿根草ですが、江戸時代に宿根草といえば、まずキクだったとか。品種改良でどんどん種類が増え、それを欲しがる人のために『新菊苗割代附帳』や『京新菊苗割帳』など、今でいう苗のカタログまで出版されたそうです。庭のない長屋でも楽しめる鉢植えのキクがとても人気があったそうです。散歩道でスプレーギクを見かけたら、江戸時代の園芸愛好家に思いを馳せ、当時の様子を想像してみるのも楽しいと思います。
ピンクのかわいいスプレーギク‘桃華’。花径は約3cmで、これも花付きがとてもよい品種です。栽培の難易度
秋咲きの品種の苗が出回るのは4月〜5月です。日当たり・風通しともによい、排水性のよい土壌に植えつけます。初夏と夏の2回摘心を行うと、わき芽が伸びて枝数が多くなります。過湿に弱いので、植えつけ時にたっぷり水やりしたら、あとは土の表面が乾いたときにやる程度でかまいません。春に新芽が出たら緩効性肥料を施します。その後、月に1度くらい追肥を施すと花がたくさん咲きます。花がしおれてきたら、付け根から切り取ります。花が終わったら、地際から10〜15cmのところで剪定し、お礼肥として緩効性肥料をまきます。スプレーマムは同じ場所で育て続けると、連作障害を起こすことがあります。数年咲かせて花つきが悪くなったら、別の場所に植え替えるのがおすすめです。
【難易度】
★ 容易・初心者向け
★★ 標準・初級〜中級者向け
★★★ 少し難しい・中級〜上級者向け
★★★★ 難しい・上級者向け
★★★★★ 栽培環境が限られる 高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。