月を眼下に宇宙遊泳。「私が宇宙船から見た地球は、距離が近かったために球体ではなかったの。だから、月から真ん丸の地球も見てみたくて」と向井さん。宇宙医学は予防医学。QOLの高い人生を願って
松岡 ご専門の宇宙医学ではどのような研究をされているのですか?
向井 地球の外で活動する人たちが健康を害さないために何ができるかという、予防医学の研究です。今や月旅行は現実のものになりましたが、月の環境では重力は地球の6分の1になり、放射線がバンバン飛んでくる。そういう環境で人間が健康でいるための研究は、地球で暮らす私たちとも無関係ではありません。病気を治す技術がどんなに進化しても、病気にかかるのは嫌ですよね。寿命が尽きるまでQOLの高い人生を送るために予防医学が重要なんです。
松岡 具体例を教えていただけますか。
向井 たとえば、糖尿病など特定の病気になりやすい人の運動習慣や食事の内容を変えることで、病気を予防したり、なっても軽くすむようにすることです。138億年続く宇宙の中で、私たちは生きてせいぜい100年。その限られた時間を、命あることに感謝しつつ、できるだけ健やかに、周囲の人たちとハッピーに生きたいですよね。
松岡 おっしゃるとおりです。
向井 私は病院に勤務していたとき、子どもや若い人が亡くなるのをたくさん目にしたので、余計にそう思うのかもしれません。「明日もおいしいお味噌汁が食べたいな」というくらいの小さな楽しみがあれば、人生は十分ハッピーだと思うんですよね。
松岡 シンプルで説得力があります。
向井 そう、人生はシンプルに。複雑にしないほうがいいんです。
松岡 千秋さんが今叶えたい夢は何ですか?
向井 月のホテルでラグジュアリーな食事をしながら、満月ならぬ“満地球”を見ることです。
松岡 満地球!(笑) 僕は今、“千秋イオン”を浴びて、とっても楽しく、幸せな気持ちです。
向井 そういうのは、松岡さんの専売特許じゃないですか。
松岡 千秋さんにはかないません。今日はポジティブパワーをたっぷりいただき、ありがとうございました。
修造の健康エール
「憧れの貴婦人。きりっと立っているのだけど、フラジャイル(脆い)で崩れそうにも見えました」。これは千秋さんが初めて宇宙船から見た地球の印象です。
「皆さん半導体や食糧の不足には危機感を持っていますが、空気や水も有限だということへの意識が薄いように感じます。私たちが生きている大気圏は薄皮饅頭の薄皮くらいしかありません。温暖化や大気汚染の進む地球を我々が何とかしなければ、この限られた資源を守れなくなり、次の世代が苦しむことになる。救いなのは、若い人たちの意識が高いことですね」。
お話を聞いて、僕らは地球の一部なのだから、自分の体と同じように地球の健康を守っていかなければと強く思いました。僕らの故郷である地球がこの先も美しい貴婦人でいられますように。
松岡 修造(まつおか・しゅうぞう)
1967年東京都生まれ。1986年にプロテニス選手に。1995年のウィンブルドンでベスト8入りを果たすなど世界で活躍。現在は日本テニス協会理事兼強化本部副本部長としてジュニア選手の育成・強化とテニス界の発展に尽力する一方、テレビ朝日『報道ステーション』、フジテレビ『くいしん坊!万才』などに出演中。大人気シリーズ『修造日めくり』の最新作『まいにち、つながろう 心と心はノーディスタンス』は全ページ本人による音読(QRコード)付き。ライフワークは応援。
撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/大和田一美〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子 撮影協力/東京理科大学 近代科学資料館
『家庭画報』2022年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。