隈 研吾(くま・けんご)1954年生まれ。東京大学大学院建築学専攻修了。1990年隈研吾建築都市設計事務所設立。東京大学特別教授・名誉教授。これまで30か国を超える国で建築設計し、国内外200件以上のプロジェクトが同時進行。フィンランドの国際木の建築賞、イタリアの国際石の建築賞ほか、国内外で受賞多数。1986年から2022年まで
建築家・隈 研吾のすべて
オリンピックのメイン会場、国立競技場を設計したことで広く知られる世界的建築家・隈 研吾さんが、1986年から2022年までに手がけてきた仕事のすべてを振り返る大著を出版した。
特徴は、55を数える主な仕事のなかに、書籍の執筆もカウントされていること。隈さんは、自らの仕事を「大きな建築」、「小さな建築」、「物を書くこと」と区分して三輪車にたとえるほど、著作を重要視してきた。
「建築と文章を書くことの共通点は、しっかりとした構造をもっているものが美しいと感じられることだと思います。共通しない点は、文章には順序が存在し、書き出し、書き終わりがあって形になりますが、建築はどこからでもかかわることができることです」
1986年からスタートする本書は、写真を眺めるだけでも「あそこも隈建築だったのか」といった驚きや、「今度はこの美術館を訪ねてみたい」という発見に満ちている。
たとえば銀座の歌舞伎座や、南青山の根津美術館などを訪れる際、建築にも興味をもつことで、歌舞伎や作品を鑑賞する時間がより豊かなものになるだろう。
「建築は、時代の産物です。その時代の文化、経済の“雰囲気”を建築は正確に表し、伝えているため、その時代を知る手がかりとなります。ですので、建築を見に行かれる際は、それが建てられた時代背景や経緯を調べたり、それが建つ場所の文化をチェックしたりしておくと、実際に訪ねたときの味わいや感動が深まると思います」
本書で隈さんは、これまでを“ジェットコースターのようだった”と振り返っている。隈 研吾という一人の建築家の仕事を振り返ることは、この時期の日本、そして世界を振り返ることにもつながるようだ。
読み終えると、では、今後はどうなるのだろう?という興味が湧く。隈さん自身は将来をどう見据えているのだろうか。
「自分が建築を本格的に始めた1980年代後半から、時代はすでに十分ジェットコースター的に変化し、起伏は激しかったと感じます。今後は、いっそう大きな波が来るかもしれませんが、その波が、世界の建築や文化にどのような影響を与えるか、自分でもまったく想像がつきません。しかし、その想像がつかないところが面白いと考えて、今後も建築を続けていきたいと思います」
本書には、“建築は罪悪である”といった刺激的なタイトルがつけられたコラムも多く掲載されている。
その建物が設計されたときに、建築家が社会をどうとらえ、何を考えていたのかを知ることで、建物への理解度が高まり、その場に身を置いた際の感じ方もより味わい深いものになるだろう。
デザイン/刈谷悠三+角田奈央〈neucitora〉『全仕事』
隈 研吾 著/大和書房1986~2022年の活動を4期に分け、主たる55作品を豊富な写真とともに紹介。自らの言葉による“なぜ、こうなったのか”の解説は、建築への興味をかき立て、その建物で過ごす時間をより楽しむためのヒントになるだろう。建築を知り、理解することが、いかに人生を豊かにしてくれるのかを実感できる。
「#今月の本」の記事をもっと見る>> 構成・文/安藤菜穂子 写真/J.C.Carbonne(隈 研吾さん)
『家庭画報』2022年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。