究極のハイジュエリー 第11回(全20回) 目にするだけでも夢や幸福感を誘い、生きる力を与えてくれる、究極のハイジュエリーをご紹介いたします。
前回の記事はこちら>> 植物の名品に宿る物語
監修・文/山口 遼 宝石史研究家
19世紀のことだが、ローマに不思議な宝石商がいた。カステラーニという男で、ジュエリー史上、自分の作品に自作であることの署名を残した最初の人物である。彼とその一族はイタリア全土から続々と出土する古代の金製品を大量に集め、エトルリアや古代ローマのジュエリーに使われている技術とデザインを復元することに情熱を注いだ。天才的な作り手で、多くの名作を残している。
このネックレスは古代のローマの頃から広く使われた植物模様の一つ、ブドウの葉を復元したもので、その精緻さはオリジナルの作品を凌ぐものだ。
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山口 遼さんの連載「ジュエリーお買い物学」>>花束にも見える作品はエイグレットと呼ばれるもので、インド伝来のデザインである。英国にやってきたインドの王侯貴族が、ターバンの中央の飾りから大きな白鷺の羽根を立てているのがエイグレットで、これを見て感動した英国人が模倣したもの。英国に羽根はないから、植物を羽根と同じ形に揃えたジュエリーをダイヤモンドで作ったのがこの作品である。羽根が麦に変身したわけだ。
小さな昆虫の羽根にも似たブローチは、ヤドリギをデザインしたもの。ヤドリギはその実を鳥が食べ、ほかの樹木などに種などが付着してそこで繁殖する。その生命力の強さから、生きる強さのシンボルとして、一種の護符のような意味を持つものとして多く作られている。
アルビオンアート・コレクションより
カステラーニ制作 ブドウの葉のネックレス古代ギリシャやローマのゴールドスミスの技術とスタイルを復活させたカステラーニ。このネックレスは、ギリシャの原型にインスピレーションを得たもの。編んだ金のワイヤチェーンに、ゴールドの葉とガラスの房が交互に掲げられている。(1870年頃、ガラス、ゴールド)/アルビオンアート・コレクション
“セレス風”エイグレットセレスとはローマ神話の豊穣の女神。オールドカットダイヤモンドをセットした3本の麦の穂が、風になびいているかのようにデザインされている。髪飾り、もしくはブローチとして着用するためのもので、ボウノットは着脱式。(1830年頃、ダイヤモンド、ゴールド、シルバー)/アルビオンアート・コレクション
ベルギー王妃エリザベート旧蔵 ヤドリギのブローチベルギーのエリザベート王妃が生涯にわたって愛用したブローチ。5個のナチュラルパールとダイヤモンドでヤドリギを表現している。ヤドリギは多産と持続する愛の象徴として、この時代のジュエリーテーマに多用されている。(19世紀末、パール、ダイヤモンド、シルバー、ゴールド)/個人蔵、協力:アルビオンアート・ジュエリー・インスティテュート
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一人の日本人が集めたジュエリーの大コレクション「アルビオンアート・コレクション」をご存じですか 撮影/栗本 光
『家庭画報』2022年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。