生物は生まれて生きのびて育ったら交尾して子孫を残して死ぬ。己の遺伝子を未来に継続させるのが全ての生き物に共通する願いであり、限られた時間を必死になって生きる理由でもある。
人間の皆さんも例外ではなく、生物圏の中に人間圏が内包されている以上はこの掟から逃れることはできないし、自分は違うと思っていても知らないうちにそうしている。皆さんは生まれた時にはすでにヒトであり、ヒトとして育ち今に至っている。
そしてヒトであることを当たり前と思い、ヒトの世界での決まりごとが全てと信じ、ヒトこそ最上の生命体であると思い込み、自分が動物だということすら忘れているように見える。
当たり前のことだが、ヒトは突然現れたわけではない。皆さんが今生きているのはご両親がいたからで、そのご両親もそれぞれの親によって生まれた。
時代を遡れば現代人は原始人に、そして猿人に、もっと時間を逆行するとサルになり、原猿類になり、食虫目の何かになり、途中をかなり飛ばしてさらに大昔に戻ると肺魚のような魚になり、ナメクジウオのようなものになり、最後には単細胞の微生物にたどり着く。
だからタイムマシンで38億年前に行き、ご先祖様に会ったとしても、それは人間ではなく顕微鏡でしか見ることができない小さなバイキンのような生き物の一種なのである。
こういった基本的な進化の歴史はどの動物でも似たようなものであり、つまりヒトもイヌもブタも生命体としては同格であって命に貴賤はなく、やっていることは皆一緒だ。だから人類の悩みのほとんどはその根源に生殖の要求があるのだ。人間特に女性をバカにしているのでは決してないことをおことわりしておきたい。
大柄な女性がシンガプーラの仔猫を抱いてやってきた。
「この子は食欲旺盛でこのままでは育ちすぎてしまうのではと心配です」
「シンガプーラは環境による選択淘汰で小型になった品種ですが、大きくなる子もいますよ」
「女の子だし、そうなったら価値がなくなります」
女性は高身長を隠すように猫背気味になりながらそう言った。
「大きくてもいいじゃないですか。小さい男の子と結婚させればちょうどよい大きさの子が生まれますし」
女性は驚いた顔で言った。
「小さい男の子は大きい女の子を嫌いませんか?」
「むしろ好みます。生き物は次世代で普通になるような結婚相手を選ぶのです」
女性の表情が明るくなった。
「実は……」
ほらキタ! 人生相談の時間です。
「私は身長が175センチもあってコンプレックスがありますが、男性の身長は気にしたことがないんです」
「むしろ小さい男に魅力を感じませんか?」
「はい」
「それでいいんです。ペタ靴を10センチのヒールに履き替えて背筋を伸ばし、計190センチになって堂々としましょう」
生物は自分の突出した特徴を次世代で埋め合わせる異性を求める。つまり小さい男性ほど大きな女性を好む。実際に食品会社の社長をしている私の後輩は160センチ程度の身長であるものの、5人いる奥さんたちは全員170センチを超えているのだった。
スーパーカークラブの華やかなパーティは高級ホテルのスイートで行われる。年上のメンバーに「来い」と言われれば、犬の性質を持つ私は行かなければならない。
私の場合は貢物を渡して挨拶をしたら窓際のテーブルで犬のように肉料理を食べるだけなのだが、そこでは招待された経済的に余裕のある若社長たちのために抜群の美貌を持つ超絶美女たちも呼ばれていて、事実上のお見合いパーティになることが多い。若社長たちが健康でエサ取りが上手い雄なのは明白だが、頭の中身は外からではわからない。
美女たちの男性陣への質問が一様に卒業大学であることに気が付いたヒトザル研究家の私は、大いに興味をそそられた。結局のところ一番良い大学を出た男性がモテモテだったが、その外観は標準よりかなり下だった。つまり外観にも健康にも恵まれている美女たちにとって、欲しいものは自分たちにはない頭の良さだけだったのだ。
私はシンガプーラの高身長女性に言った。
「貴女も仔猫も思い切り伸びてそのカッコ良さをアピールしてくださいね!」