人気の器作家の工房を訪ねて 第4回(全6回) 今人気を集めるのは、作り手の感性が発揮された個性的な器です。今回の器セレクトの基準は“愛らしさ”。陶磁、ガラス、竹。異なる素材に向き合う4人の作家の工房を訪ねて、創作にかける想いを伺いました。
前回の記事はこちら>> 菅野一美さん
中国・磁州窯の器を範にしながらも愛らしいモノトーンの器
仙台でのサラリーマン時代、たまたま参加した焼き物のイベントで、土の感触がしっくりなじんだことがきっかけで転職を決意。瀬戸の窯業学校で学び、赤絵の黒岩卓実さんに師事。たたらの技術を習得し、独立後は問屋仕事をしながら、地元の焼き物である織部を制作。磁州窯との出会いは5年ほど前のことでした。
「白と黒が衝撃的で、“これだ!”、この表現で器を作りたい」と新たな一歩を踏み出しました。
「花文箸置き」から時計回りに、「牡丹つなぎ文8寸皿」、「鳥文木瓜形豆皿」、「鳥文輪花小鉢」、「動物文長角プレート」、「花・鳥文花弁形小鉢」、「鳥文大鉢」、「菊文8寸プレート」、「牡丹唐草文花弁形小鉢」。それまで美濃で作陶する中で、織部に縛られていたと反省。磁州窯との出会いによって、中国、ペルシャ、古伊万里へと視野が広がり、同時に、器の形も自由になっていきました。
「轆轤(ろくろ)を使わずに表現する形の自在さも師匠の教えです。丸ばかりでは食卓が単調になるので、楽しんで使ってもらえる形を模索しています」
中国・磁州窯の掻き落としには、富貴を象徴する牡丹文が多く描かれ、北宋時代に制作された牡丹折枝文梅瓶(めいぴん)(重要文化財)が永青文庫に所蔵される。菅野さんの牡丹文は葉脈や花弁に線刻が施されている。丸まった枝ぶりが軽妙な味わい。掻き落としは、織部に比べて制作時間がかかります。赤土で作った形を素焼きして白化粧がけ。再び窯で焼き、絵具(えぐ)で絵を描いてからフリーハンドの掻き落としでディテールを表現しますが、掻き落としだけで器一つに30分以上かかるといいます。「大変ではあるけれど、焼き物の道に進んでよかったと思います」。
下のフォトギャラリーで詳しくご紹介します。 菅野一美さん(かんの・かつみ)
愛知県瀬戸市生まれ。1996年、大学卒業後仙台で会社員に。2000年、愛知県立窯業高等技術専門学校卒業。岐阜県多治見市在住の陶芸家・黒岩卓実さんのもとで、3年間作陶を学ぶ。03年、独立し、開窯。当時は織部を制作。16年頃、中国の磁州窯の器に出会い、心機一転、掻き落としによるモノトーンの制作を決意。
最新情報はインスタグラム
@kanno_katsumiにて。
展覧会のご案内●2022年12月1日~6日 うつわ謙心(酒器展)
東京都渋谷区渋谷2-3-4 2階 TEL:03(6427)9282
●2023年6月7日~12日 うつわ楓
東京都港区南青山4-17-1 1階 TEL:03(3402)8110
取扱は上記2軒に加え、「水道ギャラリー」(東京)、「pivert」(熊本)ほか。
〔特集〕人気の器作家の工房を訪ねて
01
ガラス 西山 雪さん(1)02
ガラス 西山 雪さん(2)03
陶 菅野一美さん(1)04
陶 菅野一美さん(2)
この特集の掲載号
『家庭画報』2022年11月号
撮影/本誌・西山 航 取材・文/片柳草生
『家庭画報』2022年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。